日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実
吉田さんの、ある意味での集大成のような本。アジア・太平洋戦争の時期の日本軍はどのような地点にいたったのかを、さまざまな資料から紐解く。第一章の「第1章 死にゆく兵士たち―絶望的抗戦期の実態」は、藤原彰さんの仕事を受け継いだものだけど、さらに、その死の実態について、多面的に海没死や特攻死のあまり知られていない特徴とその背景にあるもの、自殺というものがどう広がり、それがどう扱われていたのか。「第2章 身体から見た戦争―絶望的抗戦期の実態」もまた、吉田さんの真骨頂。『日本の軍隊』で描いたものの先にある兵士と軍隊の実像である。兵士の体格や身体について、徴兵検査の実態から知的障害者の位置づけなどにも迫る。虫歯の話から、栄養不良への対応の遅れ、戦争神経症など病む兵士の問題の裏側にある覚せい剤使用の広がりなどは、驚くべき実態。被服や装備の話、とりわけ靴の話など、こういうところにも、この戦争の性格がよくわかるのだ。「そして、第3章 無残な死、その歴史的背景」で、日本軍にある異質な軍事思想の特徴、短期決戦、作戦至上主義、極端な精神主義、そこから米英への過小評価などなどが明らかにされる。戦車戦への対応の問題などにも驚かされる。さたに日本軍の制度として根本的欠陥 、その背景にある日本という国家のもつ根本的な後進性などについての明らかにされる。どんどん、日本軍について、誤った議論が広がる時期だけに、そしてあの戦争の教訓がないがしろにされようとしているだけに、こうした日本軍兵士の実相をとおして、日本の戦争について、しっかり向き合うことがいつにもまして重要。これは、絶対に読むべき1冊であるのだ。
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