メディアの戦後史 共産党員逮捕の菅生事件 警察の不正暴いた取材合戦
毎日新聞のシリーズ。菅生事件を取り上げていた。
メディアの戦後史 共産党員逮捕の菅生事件 警察の不正暴いた取材合戦(毎日新聞)九州ののどかな山あいの村に未明、爆音が響いた。1952年6月2日午前0時過ぎ、大分県菅生(すごう)村(現竹田市菅生)の駐在所でダイナマイト入りのビール瓶が爆発した。けが人はなかったが、なぜか警察が爆発前から駐在所を囲んで待機していた。近くにいた男性2人を含め共産党員5人を即日、爆発物取締罰則違反などの容疑で逮捕した。後に菅生事件として知られる事件だ。
共産党員らを公職追放するレッドパージから2年後のこの年、札幌市で警官が殺害された白鳥事件や、戦後の学生運動で初の死者を出したメーデー事件が発生。警察は共産党活動との関連を捜査していた。そのさなかだった。
大分地裁は全員を有罪としたが、2審・福岡高裁では異例の展開になった。被告側は現場近くにいて事件後姿を消した「市木春秋」と名乗る男の関与を主張していたが、「市木」とみられる人物の写真が出てきたのだ。
被告側の主張では、市木という男が事件の数カ月前に村にどこからか現れて製材所で働き始め、「共産党に入党したい」と接触してきた。事件当日、男性らを現場近くに呼び出したが、直後に警察の車に乗って行方をくらました。共産党員を犯罪に陥れようと画策していた警察官に違いないと言うのだ。
高裁が審理中の56年11月、地元の大分新聞、大分合同新聞の2紙が「市木は現職警官の戸高公徳巡査部長」と実名を特定して報じた。新聞各紙の特ダネ合戦が始まった。しかし、肝心の戸高巡査部長は「東京に行った」という情報だけで、行方がつかめなかった。
「菅生事件のナゾ 姿を消した警官」--。毎日新聞は翌57年3月13日、事件の不可解さを伝える記事を掲載した。東京本社版でも朝刊3面の半分近くを使い、独自入手した戸高氏の写真を掲載。関係者の証言も加えて「市木と戸高が同一人物とは考えられない」と否定した警察庁の山口喜雄警備部長の国会答弁に疑問を投げかけた。
同じ3月13日、事件は急展開する。共同通信社会部の取材班が、東京都新宿区のアパート「春風荘」に身を隠した戸高氏を見つけたのだ。近くのバーに場所を移して話を聞いたが認めず、翌日の取材でようやく「市木は私。党に近づくため潜入した」と認めた。「消えた警察官 現わる」。共同の配信を受けて、毎日新聞など各紙の取材にも火が付いた。
福岡高裁で戸高氏の証人尋問が実現した。眼鏡をかけ頭髪をきちんと分けた戸高氏は、当日は現場にいなかったと主張したものの、自らダイナマイトを運搬し、爆破された駐在所に脅迫文を書いたことを認めた。
高裁は58年6月9日、爆破事件について5人に逆転無罪を言い渡した。うち1人の主任弁護人を務めた清源(きよもと)敏孝(としたか)氏が「新聞社が競い合って戸高氏を見つけ出した。メディアの存在がなければ裁判を覆すのは難しかった」と話していたと、次男で弁護士の善二郎さん(63)は振り返る。
最高裁も60年12月16日、高裁判決を支持した。判決を伝えた毎日新聞夕刊で作家の松本清張氏は「戸高をジャーナリストたちが追及して明るみに出さなかったら、警察はかくしたままだっただろう(中略)その勝手な振る舞いには恐ろしさを感じる」と感想を寄せた。
事件から60年以上が過ぎた。共同通信社会部取材班のキャップだった原寿雄(としお)氏は92歳になった。「権力が正義を追求するとき、正義のためにという名目で、不正義な手法を用いるということがある。それは今も昔も変わらない。権力の不正を監視し、つかんだ事実で不正を明らかにすることが報道の役割だ」と言葉に力を込めた。
メディアの取材合戦に焦点をあわせたのがなかなかね。捜査機関にこれだけ大きな力を与えられた時代に、メディアの役割が大きいのは今も同じだけど。さて、どうだろうか。
この事件を知ったのは、大学の1年生のとき。教養の憲法の授業で、先生が、菅生事件と松川事件をとりあげての授業だったのだ。とてもおもしろかったので、関連する文献をその後読んだよなあ。その先生は森(川口)先生だよ。
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