ハンセン病児問題史研究―国に隔離された子ら
清水寛先生の、この本を、やっと最後まで読み終えた。ちょっと時間がかかったなあ。だけど、いまから10年ほど前の『日本帝国陸軍と精神障害兵士』でもそうだったけど、ものすごい仕事をこの先生はやるのだよなあ。この本も、すごい本だった。
ハンセン病児の問題について考えるさい、その前提であり、最大の問題であるハンセン病隔離政策ということを考えないと、理解できない。その問題性、非人道性について、あらためて、明らかにしながら、実相に迫っている。冒頭から、この問題、そこで生きていた人々の苦難に、胸がつぶれる思いがする。
だけど、よく考えていると、ハンセン病について多少の知識があっても、その隔離のもとで生きていた、子どもたちのことについて、何も知らない。この本は、ハンセン病の歴史研究のなかでも、子どもの問題に焦点をあてているという点で、これまでにない研究として画期的だと思う。そのもとで、どのような暮らしをしていたのか、そもそも、子どもたちはどのように処遇されたのか? 教育はどうなっていたのか。隔離され、退廃的な雰囲気が拡大する世界のなかで、子どもたちはどう生き、そこに関係者(補助教員など)はどう働きかけたのか。それは戦前と戦後(憲法と教育基本法)でどのような変化があり、戦後も続いた隔離政策のなかで、どのように限界があったのか。
こうした問題を、残されている資料や当事者への聞き取りからあきらかにするのだけれど、文芸作品など、当時の文集などからも、当時の子どもたちの様子がうかがえ、それを明らかにする。そこでとくに、感じるのは、戦前の光田氏による大家族主義の実態と、その影響だ。さらには、戦後の歩みを考えるうえでは、共学拒否事件というものがあり、それがいろいろなことを投げかけている。この点でも、日韓の違いにも、ハッとさせられる。
本では証言が、掲載されている。そこからは、反省病児の実態や、そのときの心情が生々しく読み取れるし、それがその後の歴史的なたたかいにつながっていくことも学ばされる。重監房の話など、これほどのものかと改めて思う。同時に、谺さんと宮城さんの話からは、それ歴史から、学ぶことの重みも感じる。証言のそれぞれから、この人たちが、その体験から学んだ、高い人権感覚と人間性というものを感じる。このことを通して、子どもの権利、障害者の権利、人間としての権利というものを考えたい。関係する多くの人に読んでほしいなあ。
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