若者、地域とともに育つ大学~北 海道から考える~
土日は北海度でした。大学評価学会。金曜日に北海道入りして、土曜朝からの参加です。近頃、北海道が多いって? これは仕事ですから!
まずは、自由研究発表ということですが、テーマは「無償教育の漸進的導入」。
渡部昭男さん(神戸大学)、渡部[君和田]容子さん(近畿大学)、國本真吾(鳥取短期大学)さんの 「『無償化』科研の全体構想と地方施策研究の進め方-鳥取県を事例に- 」。前の2人は大学の研究室の先輩ですから…。この『無償化』科研のとりくみは、やはり興味津々です。渡部さん、柔軟な人だから、いろいろな動向をキャッチして取り込んでいく。危なっかしいなあと思ったりすることもあるけど、原則はきちんと考えているんだおなあ。この視野の広さと思慮深さにちょっと驚愕する。そして、今度は地方からかあ。
下木なつみさん(神戸大学大学院生)「子どもの貧困と若者支援-兵庫県猪名川町の取り組みに着目して-」は、子どもの貧困を若者のトランジットという課題とかさねながら考えようというもの。そこで、若者支援の意義をうきぼりにする。
田中秀佳さん(名古屋経済大学)と石井拓児さん(名古屋大学)、報告は前者だけど 「大学生の教育費意識に関する調査手法の開発的研究(1)」。教育費負担は仕方がないという意識がなぜ広がるのかに、切り込もうとする。世界でもアジアでも教育費負担の軽減は流れ。日本でも給食にしても、医療費にしても無償化に向かう。では、大学の教育費は? その財源の構想は、先日、石井さんとちょっと議論した。この課題に難しさは、高等教育費というものの性格からくるのかも。どんな社会をつくるのかの構想と不可分だな。
そしてお目当ての小池由美子さんの(埼玉県立川口北高校)「韓国の給食費の無償化と日本の給食費の実態」と日永龍彦(山梨大学)「韓国の新聞記事に見る大学授業料(登録金)問題(第三報) 」。いかにアジアが変化しているのか。だけどそれが現実には、新自由主義的な改革とむすびついたりする。その全体像から、日本で考えなければならない問題が結構、うかびあがってくるんだよなあ。
午後からのシンポジウムは、あまりにも刺激的!
まず、「地方自治体と教育行政の立場から大学に期待すること」と題して、菊池 一春さん(訓子府町長)。社会教育分野の出身の方だから、やっぱり地方自治ということに関しての意識がとても高い。さまざまな地方の困難の打開は、住民にこそある、それを支えるのが自治体だという、地方自治への確信と信念はすごいし、だからこそ、正々堂々とした国へのものいいもすごいなあ。ヤマケンさんが見つけ出してきたのもよくわかるなあ。
「地域における「つながり」に関する若者の意識―北海道の高校生を対象とした調査から―」と題した三上直之さん(北海道大学准教授 高等教育推進機構高等教育研究部 )。北海道というところの高校生の進路の調査からは、さまざまに迷う高校生たちの語りも聞こえそうで、興味深い内容。これだけでも、いろいろ討論したいところだけれど。
最後は、「地域に根ざして個性を磨き、地域社会の再生に挑む」と題した黒瀧秀久さん(東京農業大学教授)たちのとりくみ。網走の地にあるこの大学が地域と密着した大学づくりと産業づくりにとりくむ。黒瀧さんは、もともとは農業経済それも、原論のようなものをやっていた。その自己変革がすさまじいい。
地域のなかで生きるということが、息づいた、ものすごい活力のある議論だった。この力強さと、一方で、日本全体を覆う閉塞感のあいだの落差とはどういうことなのか?と考えさせられる。
2日目の午前中は、「発達保障」の分科会。テーマは「ノンエリート青年の大学教育と発達保障――なぜ大学に行き、学ぼうと思うのか」。ユニバーサル化時代の大学生の特徴として、「学習動機が不明確」「無気力」などと記述されることは少なからずある。だが、実際にそういう学生の姿も見られるとしても、本当にそのような言葉だけで片付けてしまって良いのだろうか? このような問題意識のもとで、本分科会では経済的に恵まれていなかった
り、学力的にも恵まれなかったりする(少なくともエリート的な学力の高さを有するわけではない)青年たちが、それでも大学に行こうと考えるのはなぜなのかを考えたい、というのが企画者の問題意識。
それをまず白波瀬正人(学校法人野田鎌田学園あずさ第一高等学校)さんが 「通信制課程で学ぶ高校生の現状と課題――進路希望調査からの一考察」と報告。不登校経験が多い中で、自己を肯定し夢を持てるようになったことは評価できると肯定的に、とらえながら進路希望の1位が、声優。このことそのものでも、ざまざまな議論はできるのだけどなあ。司会者が杉田さんの本の話をしていた。出なかったら発言しようと思った。
伊田勝憲(静岡大学学術院教育学領域/元・北海道教育大学釧路校)さんの 「貧困・愛着・スクールカーストから考える進学動機」は、釧路校という僻地校にくる学生の両面の学習をめぐる意識の特徴、高校における学力的地位が、大学での伸びに関係してくると指摘。挫折感を引きずるか、可能性を見出すかにふれながら。なかなかおもしろかった。指定討論者として川原茂雄さん(札幌学院大学)が、自身が専門高校教員をやっていたころに、 上位30%の生徒は就職、社会に出すのが難しいという子どもたちを、大学で成長の機会をと送り出した話からはじまる。若者の移行というものをどう支えていくのかという大きな視点から大学教育の課題が議論されて、とてもおもしろかった。
午後は、「高校教育・高大連携」。テーマは「高大接続と社会参画のあり方―高校・大学をつなぐ主権者教育と地域づくり」。社会参画の視座から高大接続の教育課題にアプローチする。公職選挙法が改正され、18歳選挙権が日本においても実現し、高校生・大学生の社会参画促進が期待される。しかし先の総選挙では20代の投票率が32.6%という実態がある。高校生に望まれる主権者教育の課題は何か、大学教育における主権者としての自覚を促す課題は何かが改めて問われる。国からの政策で大学「改革」が進められる下、大学づくりと学生参画とも関わる課題である。同時に主権者教育とは、国政のみならず地域社会への参画課題でもある。北海道から、地域づくりに主権者として高校生・大学生がどのように参画しているか、実践と理論を深めるというのが趣旨。
まず姉崎 洋一(北海道大学名誉教授)さんが「地球市民教育と主権者教育の結合の理論と実践課題」。いまの時代、グローバル化時代と地球市民の時代という視点、いってみればレイトモダンの孤立化の時代に、主権者教育というものを広く、地域の学習運動の実践とつなぎながら問題提起。十二分知的刺激をうける。
池田考司(北海道奈井江商業高校/北海道臨床教育学会副会長)さんは、 「若者が主権者になることを保障する政治教育を」という実践。生徒たちと、どのように、この間の社会の問題にともに学び、そのなかで生徒たちがどのように変化してきたのか。
指定討論者の小山田伸明(北海道大学学生)さんの提起はとってお重かった。社会運動にかかわる、彼の目からみた学生のさまざまな姿、困難と関心、 「だって仕方がないんじゃない」で終わってしまう。それはなぜか?大人から、若者は政治を知らない、軟弱だと言われるほど、若者は離れていく。それでも尊厳を持って生きていきたいと思う…。世代の違う人間が対等な関係で向き合うことが少ない。今までの学校教育の延長で、まず部活がある。そしてバイト。その世界は実は狭くて、異質な他者に出会っていないのではないか、などなど。そもそも、大人社会が閉塞しているなかで、では何が可能なのか?そもそも、大学そのものが、こうした学生揺れや葛藤によろそうような取り組みができる現状にあるのか。大学のなかにある諦念というものが、それを阻んでいるのではないのか、そんなことも考えさせられた。
あまりにも宿題が多い。ちゃんと、いろいろなものを読み込んで、考え続けないとなあ。そのことを感じた。そして、いろいろな人に会えたのも収穫。
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