慰安婦問題の解決のために アジア女性基金の経験から
和田さんの新著は、なかなか読みごたえがあった。なにしろアジア女性基金の呼びかけ人であり、専務理事として、もっとも深く関わった人である。だから、基金への思い入れの強さは人一倍だけど、だけど、この事業の経緯をかなり冷静に振り返り、どこに限界と問題があったのかを、率直に明らかにしている。大沼さんの本などとはかなり違う。
その根底にあるのは、やはり被害者への思い。その人権を、人としての尊厳を尊重したいという思いだと思う。だからこそ、被害者を軸に、彼女たちがうけいれることができる方法こそが、解決策だとも言い切る。
しかし、この本で克明に記録されているのは、何といっても、日韓での慰安婦問題の経緯と、とりわけ、アジア女性基金の事業をまぐる、国内外の動きだ。ひとつの政治史の記録としても、政治学のテキストとしても、かなり読みごたえがある。しかも、その議論は、かなり冷静で、客観的に思える。
そして、解決策について、アジア連帯会議の提言を紹介している。http://wam-peace.org/20140726/ 被害者の要求の核心に戻った、大事な提案だと。この提案に関して、挺対協は「法的責任を改めて確認した」といい、和田さんは「責任」ということに絞ったと言っている。必ずしも見解は同じではないが、だけど、そもその何が法的責任なのかを考えれば、明確な定義づけがされてきたわけでないので、ここはクリアできそうでもある。国としての責任をみとめ、法的な効果をもった謝罪と賠償をおこなうとでも言えばいいのか。
結局、よくわかることは、問題の解決には、政治の役割が重要であるということでもある。国の責任と、国による賠償ということを曖昧にしての解決はないが、そのためには政治的な問題をやはりクリアする以外にはない。そのための政府の決断こそが大事なのだと。事態の経緯を振り返れば、アジア女性基金の際にも、野田政権の時代の交渉の際にも、かなり踏み込んだ決断もあったようだ。だけど、最後の政治的な決断が政権になかったと。いま、この問題の解決には予断は許さない。だけど、国際的にも、交渉者のレベルでも、あるていどの認識の共有はあるのではないかとも思える。被害の事実はいまでももう揺るがない。問題は、これに対して妄言による被害者の貶めを繰り返す勢力、そこなかには政治家も含まれる、に対して、ときの政権がきっぱりした態度をとれるのか、その証としての責任の所在の表明や謝罪、賠償などをすすめることができるのかである。うーーん。
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