メディア時評:「慰安婦」報道、立ち位置が問われる=上智大教授(政治学)・三浦まり
よく考えれば当たり前のことではあるのだけど、たしかに日本のメディアを見ていると錯覚を起こす。そのことをうまく指摘している。
メディア時評:「慰安婦」報道、立ち位置が問われる=上智大教授(政治学)・三浦まり(毎日新聞)米国などを拠点とする日本研究者187人による日本政府の歴史認識に関する声明を毎日新聞は5月27日に全文掲載した。先月のこのコラムでもこの声明の重要性を指摘したが、その後、賛同者は457人となり、さらに増え続けている。
1ページを割いて詳細に報じた点は高く評価したいが、そこに掲載された「米歴史教科書の慰安婦記述」の用語解説は、本声明の持つ意義をかえって見失わせるものだ。
187人の声明に先立ち、米国歴史教科書の「慰安婦」記述に日本政府が訂正を求めたことに対して、米研究者が声明を発表し、それへの反論として、秦郁彦氏らが教科書の訂正を求める勧告文を発表したとある。事実関係はその通りであるが、米研究者と日本研究者全体が見解を異にしている印象を与える。
5月に出された187人の声明は「日本の歴史家を支持する声明」と題されているように、正確で公正な歴史研究を行っている日本の歴史研究者たちへの連帯を示すものである。日本の「勇気ある歴史家」たちが昨年10月に歴史学研究会として出した声明「政府首脳と一部マスメディアによる日本軍『慰安婦』問題についての不当な見解を批判する」への支持表明ともいえる。
187人の声明が出たのち、さらに日本側から5月25日に16の歴史学会・歴史教育者団体が声明を発表し、日本軍「慰安婦」問題の事実から目をそらす無責任な態度を一部の政治家やメディアが取り続けることを批判した。歴史学研究会のほか、日本史の学術団体としては最大の日本史研究会などが入り、数千人の歴史研究者の意思表明となった。
毎日新聞はこれを報道していないが、NHK、朝日新聞などは報じた。記者会見で久保亨信州大教授は「少数の左翼や右翼ではない、標準的な歴史学者の多数の意思だ」と述べている(朝日新聞5月26日)。声明は日本の歴史研究者の標準的見解と見てよいだろう。
つまり、米研究者と日本研究者全体が対立しているのではなく、学問研究の世界では国境を超え歴史的事実の究明が進んでおり、日本の一部政治家・メディアが孤立している状況なのだ。
和解に向けた市民社会の国境を超えた連帯に対して、メディアはそれを応援するのか、それとも国同士の対立に持ち込みたい国家の側から報じるのか。立ち位置が問われているのである。(東京本社発行紙面を基に論評)
右派からの攻撃をおそれてか、バランスをとる意識が働いて、右派の主張をのせたりする。しかし、世界の流れも、日本の学術的な研究の積み重ねがつくりあげてきたことも、そういうバランスとはまったく違う1つの結論があるのだ。そうした真摯な成果の上に立って、世界の知識人が解決への努力を積み重ねているときに、メディアはどういう立場をとるのか。そう立ち位置が問われている。毎日新聞でさえである。
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