NHKと政治権力―― 番組改変事件当事者の証言 ――
この本のベースになった『NHK,鉄の沈黙はだれのために』は何年か前に読んでいた。それを全面的に書き換えたもの。永田さんは、実は、ボクの姉と高校の同級生。もっとも面識などないだろうけど。だから、同郷っていえば、同郷。
余談はさておき、引き込まれるように読んだ。舞台は、2001年1月30日に放送されたNHK教育テレビ『ETV2001』シリーズ「戦争をどう裁くか」の第二回「問われる戦時性暴力」の内容が、政権党の有力政治家とNHK最高幹部が放送直前に接触することで、改変を余儀なくされたという事件。「朝日新聞」が2005年段階で、自民党の中川昭一氏、安倍晋三氏がNHKに「政治的圧力」をかけた事実をスクープしたり、なにより、番組の内容が事前の取材で示された企画意図と大きく隔たったことに対して、「女性戦犯国際法廷」の主宰者であるバウネットがNHK他二社を提訴。裁判は2007年東京高裁が、NHK側に編集の権限を超える濫用・逸脱があったとして原告への損害賠償を認めたが、最高裁では2008年、高裁判決を覆して、NHK側の勝訴として決着という経緯がある。
永田さんは、そのときのプロデューサー。現場の責任者だ。その当事者の赤裸々な告白でもある。読んでいても、永田さんは、とても知的で、有能な放送マンだ。たくさんの彼の番組をボクもみている。
事件のほんとうに丁寧に追う。その葛藤は、一言で言えないぐらい、苦しく、切ない。月刊誌の編集者っていう仕事は、結構、似ている仕事かもしれない。素材を、どう拾い上げて構成するか。とにかく、信じられないようなことが次々におこっていく。それは、この間の政治の舞台で、歴史修正ということが焦点に浮上したからにほかならない。
まだ、関係者から語られていないことは多い。だけど、脅しがあったのか、NHKの上層部がひたすら忖度した結果なのか? だけどだけど、大きな力があったのは、まちがいなく推測される。そして、その中心にいた人が、いまこの国の為政者で、メディアに対していろいろなことをしてきている。それが目の前にいる現実だ。
と、同時に、ある意味で、誠実で、悩み葛藤する普通のジャーナリストが、赤裸々に語ったのが本書。いま、歴史修正をめぐってはいろいろなことがおこっているけど、ほんとうに、事実が共有され、丁寧に議論がなされたら、やっぱり普通の感覚では、これは異常なことなんだということが、きちんと社会的に共有されるのではないのか。そんなことも考えたりする。そして、少なくないメディア関係者は、そう思ってくれるのではないのか。だからこそ、われわれは、決して諦めたり、屈したりすることなく、こうしたことを発信していかなければならないのではないのかと。
憲法への攻撃を頂点に、政権がボクらに襲いかかる。ある意味では、メディアということについては、この事件は、いまにいたる一つの画期になった事件と言ってもいいと思う。朝日へのバッシングも、籾井会長問題も、根底には、この事件がある。それだけに、いまだからこそふり返るべき問題を、しっかり提起したとっても重要な本なんだと思う。
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