激論! ナショナリズムと外交 ハト派はどこへ行ったか
元朝日新聞の政治部長だった、薬師寺さんが、主に政治家を中心に、タイトルの内容でインタビューしたのが本書。
インタビューの相手は、安防懇や安保法制懇の委員もつとめた細谷雄一、河野洋平、谷垣禎一、岡本行夫、玄葉光一郎、石破茂、山口那津男、平沼赳夫。政治的立場としては、かなり幅があるのは事実。だけど、おどろくほど共通していることもある。
それはたとえば、世界政治をあくまで、力の均衡としてとらえる。そのもとでは、正義は相対化される。まあ、細谷さんの議論がそのままベースにあると言ってもいいのかも。表現上は、寛容や和解が大事だというわけだけど、そういうとらえかただから、実は軍事力は排除されず、共存や対話ではなく、むしろ、どんどん抑止力的な考え方が入ってくるのだと思う。
そういうことをベースにしてナショナリズムや外交のことが議論される。歴史認識の問題なども、共通していて、日本の誤りは認めるとはいうものの、それはどこでもあったことだが、それを言うべきではないというレベル。この本を通じて、みごとなぐらい加害の事実については語られない。そのぐらい、侵略と加害の事実を共有するというところから遠いところにある。それがなぜ生じたのか、支配的になっているのかが興味がある。社会的にそういうことが広がっているという議論もあるのだろうけれども、世論全体がそうなっているとも考えにくいとも思うのだ。
そして、中国に対するむき出しの対抗意識も共通している。敵視に近いぐらい、現在の中国の動向についての否定的な見方がある。これは、なかなかやっかで、よく考えるべき問題だと考えさせられる。中国をどう見るかは、大きな問題。だけど、共通して語らえることは、歯止めがないぐらい一方的な感じはするが。
自民党が、単色になったことについて、小選挙区制をあげる人が多かったのは興味深い。山口氏にいたっては、政治が外交を語らなくなった原因に小選挙区制をあげる。
いまの、支配層のなかでは、官僚では外務省が強くなっているとよく言われるが、その外務省がかなりタカ派的になっている。岡本氏は、自身はタカ派ではなく、現実主義者のつもりのようだけど、みごとなタカ派議論なわけだけど。外務省の変化などもちょっと関心をもったりする。
だけど、こうした議論に、薬師寺さんは、ほとんど的を射た批判をしないなあ。そもそも、外交も、歴史認識もみごとなぐらい相対化される。国民の認識は多様で、なかなか、国民的な共通の基盤をつくることが難しい状況があるのはそうだとは思う。だけど、つみがえるべき、事実や事実認識、見方というものもあるはずだし、そういう方向を掲げなくして、ほんとうに議論は深まっていくのか、力をもった方向性をつくりあげていくことができるのか。いまの現状は、そういう危うさも考えなければいけないのだと思うのだけどなあ。
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