(安全保障を考える)自衛隊派遣のリアル 渡辺隆さん、吉田裕さん
今日の朝日新聞のオピニオン欄。戦争する国とは何かを考えさせる。
(安全保障を考える)自衛隊派遣のリアル 渡辺隆さん、吉田裕さん…
■「自分だったら」国民は想像を 一橋大教授・日本近代史学者、吉田裕さん
集団的自衛権の行使を容認すれば、自衛隊が実際の戦場に投入される可能性が高まります。現実の戦場、戦闘では人が死にます。殺し殺される状況に、自衛隊員が投げ込まれようとしている事態であると、どれだけの国民が気づいているのでしょうか。日本人の中で戦場へのリアルな想像力が衰弱しているように思えてなりません。
日本人が体験した直近の戦争、アジア・太平洋戦争での戦死とは、極めて無残なものでしたが、そうした実相が忘れられたことが想像力の衰えの原因でしょう。
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<美化された戦死> 日中戦争以降、日本軍の軍人軍属の戦死者約230万人のうち、6割が栄養失調や食料の窮乏で抵抗力をなくし、マラリアなどの感染症で病死した広義の餓死でした。輸送船などで戦地に向かう途中、敵の潜水艦や飛行機の攻撃を受けて船もろとも亡くなった海没死も約36万人を数えます。
日露戦争の戦死者は約9万人ですから、先の大戦は正規の戦闘でない形でいかに多くの人が死んだか、国が国民に強いた戦争の異常さ、むごさが分かります。
しかし、戦争体験がきちんと継承されていません。零戦の特攻隊員を描いた映画がヒットしましたが、特攻隊の担い手は将校よりも下士官や兵、それも少年兵が中心。将校の中でも陸軍士官学校や海軍兵学校出の正規将校ではなく、一般大学出身の予備将校が中心でした。こうした実態が忘れられ、国のために死んだことを美化した記憶が広がっています。
国民の多くは、戦死を自らのこと、身近なことと考えていません。自衛隊員と国民の間に溝があることが原因の一つでしょう。戦前は民衆の中に根を張った徴兵制があり、軍人が大きな威信を持っていました。国防婦人会、在郷軍人会などの組織が地域で軍を支え、公教育の場でも徹底した忠君愛国教育が行われ、軍と国民の間に溝はありませんでした。
国民には自衛隊と一緒に戦う意思はありません。2000年の国際調査では「戦争が起きたら国のために戦うか」の問いに「はい」と答えた日本人は15・6%で、データのある36カ国中最低でした。この傾向はその後も同じです。
そもそも、戦死者をリアルな現実と考える上で欠かせない追悼のあり方についての国民的合意がありません。戦前の戦死者について、靖国神社、A級戦犯を分祀(ぶんし)した靖国神社、無宗教の国立追悼施設という世論に三分され決着できていない。自衛隊に戦死者が出たらどう追悼するのでしょう。
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<ゲームじゃない> 政界では後藤田正晴氏や梶山静六氏ら「戦争への痛覚」を持った人たちが亡くなり、世代交代の結果、ウオーゲーム感覚でしか戦闘、戦場をイメージできない政治家が増えている。なかでも戦闘、戦場への道を広げる集団的自衛権行使を解釈改憲で行おうとする安倍首相の選択は、自衛隊の最高司令官として極めて無責任です。
国民的合意や支持が不十分な中で自衛隊員を死地に投じ、「国のために死ね」と命ずることは隊員や家族にとってあまりに酷です。少なからぬ隊員は自衛隊への志願が職業選択のうちの一つに過ぎず、特殊な人間、使命感に燃えた不屈の戦士ではない。しかも他国の軍隊と異なり、実戦経験を持たない。平和な日常生活と戦場の落差はとてつもなく大きい。そんな組織が戦闘に直面すれば、自衛隊内で戦争神経症が多発する可能性への懸念も出ています。
加えて、対テロ戦争の時代になり、戦場の姿が大きく変化しました。冷戦時代に想定したような大規模な地上戦ではなく、目前の敵と命をやりとりする市街戦のような戦闘が主体となっている。小銃主体の戦闘では、敵に被弾させても、絶命するまでに時間がかかり、反撃を受ける可能性があります。確実に相手の命を奪うためには、頭を撃ち抜き、とどめを刺す非情さが要求されるのです。…
平和な日常生活と戦場の落差、対テロ戦争の時代になり、戦場の姿が大きく変化、目前の敵と命をやりとりする市街戦のような戦闘。
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