生活保護法改正案の修正合意をふまえての生活保護問題対策全国会議の見解
生活保護法の改正案の議論が山場だ。今日はとにかく世間は、大阪市議会の問題に、釘付けになってしまっていたけれども、この生活保護の問題は、昨日、自公民維みの5党が修正に合意し、明日にも衆院の委員会で採択がおこなわれようとしている。水際で、生活保護の申請を阻止する「水際作戦」を合法化するこの改正案、修正されても大きな問題がある。
2013年5月29日
生活保護法改正案の修正合意をふまえての見解
生活保護問題対策全国会議
現在、国会で審議中の生活保護法改正案(以下「改正案」という)について、私たちは、①違法な「水際作戦」を合法化し、②親族の扶養を事実上生活保護の要件とするものとして、撤回・廃案を求めてきた。厚生労働省は、いずれもこれまでの取扱いを変えるものではないと弁明してきたが、法文が変わる以上、そのような弁明は信じられないと私たちは批判してきた。
本日、民主、自民、公明、維新、みんなの5党が、①の点については、申請書や添付書類の提出を必須の要件とはしない内容に修正することで大筋で合意したと報じられている。衆議院で安定多数を確保する自公政権も、批判の声を無視することができず、余りにも行きすぎた制度改変に若干の歯止めがかけられたことは、運動の成果であり一定の評価ができる。
しかし、②の扶養義務の強化の点については修正合意の対象となっておらず、未だ問題は解決されていない。大阪市北区において、DV被害にあった母子が生活困窮の末に餓死するという痛ましい事件が大きく報道されているが、このような被害者が生活保護申請をした場合にも扶養義務者たる夫に通知(改正法24条8項)や調査(同28条、29条)がなされないとも限らない。また、これらの規定の存在により、夫への通知によって自分の居所が知られることを危惧したDV被害者が、困窮状態に陥っても生活保護申請さえためらうことになりかねない。
改正案には、後発医薬品の事実上の使用義務づけ(同34条3項)、被保護者の生活上の責務(同60条)、保護金品からの不正受給徴収金の徴収(同78条の2)など、なお問題が残っているのであり、これらの規定についても削除又は修正等がなされない限り、廃案を求めざるを得ない。
私たちは、今後の国会審議において、①現行よりも申請手続きを厳格化するものではないことがより具体的に確認され、②の点についても削除又は修正等がなされる十分な審議が行われることを期待し、国会審議の行方を注視するとともに、より一層運動を強めていく所存である。
以 上
反貧困ネットも声明を出している。これは原案についての声明だけれども。
2013年5月30日
生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急声明私たちは、貧困問題の解決を目的として活動している市民団体です。
政府が本年5月17日に閣議決定した、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)につきまして、その内容に看過しがたい問題があるため、その廃案を求めて以下に緊急声明文を記します。
1 違法な「水際作戦」を合法化しようする点
現行の生活保護法では、保護の申請を書面による要式行為とせず口頭でも足るとされ、かつ、保護の要否判定に際して必要な書類の添付について、申請の要件とはしていません。
一方、改正案では、「要保護者の資産及び収入の状況」、「その他厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出し、申請書には保護の要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としています。
しかし、そもそも保護申請時に、諸資料の添付を申請者に求めるのは非常に困難です。ホームレス状態の人やドメスティックバイオレンスによって荷物を持たずに逃げてきた人など、諸事情によって資料をそろえられない人が、生活保護を利用できないと誤信し、申請をあきらめることが懸念されます。
2 扶養義務を事実上要件化しようとする点
次に、改正案は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを「義務化」しています。さらに、資産状況等の調査対象となる扶養義務者の範囲も拡大しています。
これに対し、現行法下においても、扶養義務者に対する通知が行われる運用はありました。それによって、保護の申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知により生じる親族間のあつれきやスティグマ(恥の烙印)を恐れて、申請を断念する場合が少なくありませんでした。またドメスティックバイオレンスから逃げてきた女性や家族からの虐待があった場合には、扶養義務者へ通知することで暴力や虐待が再燃する危険があります。改正案によって扶養義務者への通知が義務化され、かつ調査対象も拡大し扶養義務者への通知が法律上避けられないものとなった場合、保護の申請を行おうとする要保護者は、より明確に扶養義務者への通知を恐れることとなり、一層の萎縮的効果を及ぼすことが明らかです。
3 厚生労働省の見解の矛盾
厚生労働省も5月20日におこなわれた生活保護関係全国係長会議において、申請時に口頭での申請を従来同様に認めることや、必要な書類の添付を要件とはしない旨、別途厚生労働省令で規定予定と説明しています。
また、扶養義務に関しては、その通知の対象となり得るのは、明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず扶養を履行していないと認められる極めて限定的な場合に限るとの旨、同じく別途厚生労働省令で明記すると話しています。
しかし、もしそうであれば、条文として明記することは必要なく、すでに現行法上でおこなわれている「水際作戦」の事例に、あたかも法的根拠を与えかねません。
4 その他多くの問題点が組み込まれている点
この2点の他にも、後発医薬品の原則義務化(34条3項)、就労自立給付金の創設(55条の4及び5)、生活上の責務についての規定(60条)、返還金の徴収金額の上乗せや事実上の天引きについて(78条)、罰則規定の強化(85条及び86条)、廃止理由の緩和(28条5項)など、多くの論点が、拙速な議論のもと組み込まれています。
これらは生活保護利用者一人ひとりの尊厳や自由を阻害するもので、管理することによって「自立を助長しよう」とする発想です。しかし、本来の生活保護における「自立の助長」とは、いわくその人のうちにある可能性を見出していく(小山進次郎)ものであり、これらの条文はその対極にあります。
5 結語
以上述べてきたように、改正案が成立すると、違法な「水際作戦」が合法化されて多くの要保護者が生活保護申請の窓口で追い返され、また、多くの要保護者が扶養義務者への通知をおそれて申請を躊躇うことにより、客観的には生活保護の利用要件を満たしているにもかかわらずこれを利用することのできない要保護者が続出します。
改正案の法案提出理由には「国民の生活保護制度への信頼を高める」との記載があります。国民が求めているのは「水際作戦」を合法化するような、必要な人が利用できない生活保護制度への改正でしょうか。社会の責任を圧縮し、家族という不安定で不確かなものに責任を負わせる、穴だらけなセーフティネットへの改正なのでしょうか。
この改正案は要保護者の生活保護利用を抑制し、多数の自殺・餓死・孤立死等の悲劇を招くおそれがあります。当ネットワークは、そのような事態を到底容認することはできません。よって、改正案の廃案を強く求めます。
反貧困ネットワーク代表 宇都宮健児
以上
そもそも修正しても、大きな問題が残るのだから、絶対に廃案にすべきだ。
同時に出されている生活困窮者自立支援法案にも問題がある。自立支援そのものは、必要だと思うけれども、問題はそれがどんな形で具体化するのか。一人一人の困難をかかえた人にとって意味あるものになるかどうか。しかし支援事業の具体化は自治体に丸投げされ、支援がすすむ保証が法案にはないことがいちばんの問題だろう。言い換えれば、保証のない事業を生活保護の利用制限の口実にもされかねない。
いよいよ重大な局面にはいっていく。
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