「軍が強いた」と表記 高校教科書検定
ニュースをクリップ。高校の教科書の検定結果。全国紙ではもっぱら3・11の記述が注目される。だけど、経緯からいっても注目されるのは、やはりこちら。
「軍が強いた」と表記 高校教科書検定(琉球新報)文部科学省は26日、2014年4月から主に高校2、3年生が使用する新学習指導要領(09年告示)に基づく教科書の検定結果を公表した。
日本史教科書で、実教出版、山川出版社、清水書院、東京書籍の4社9冊のうち、4社8冊が沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)を取り上げた。「日本軍による命令」や「軍命」を明記した教科書はなかった。07年9月29日の「9・29県民大会」で11万6千人余(主催者発表)が求めた日本軍強制に関する記述復活と、「軍命」を削除した06年度の検定意見撤回はことしも実現しなかった。一部踏み込んだ表現が複数の教科書でみられたが、いずれも検定意見は付かなかった。
踏み込んだ表現は「日本軍が強いた」「日本兵による命令」など。住民を「集団自決」に追い込んだ主体として「日本軍により」と追記した記述も多かった。
文科省は今検定が06年度の検定意見や「集団自決」への直接的な軍の命令を示す根拠は「確認できていない」とした教科用図書検定調査審議会日本史小委員会の「基本的とらえ方」(09年12月)に基づき行われたが、いずれの表記も「その範囲を超えない」(担当課)との認識を説明。研究者らは「どう軍の強制を表現しようか努力した点もみられる」などと分析した。06年度の検定意見以降、「集団自決」の記述は「軍の関与」や「集団自決」に「追い込まれた」などにとどまり「集団自決」に追い込んだ主体も曖昧(あいまい)にした表記になっていた。
「集団自決」への軍命の有無が争われた「岩波・大江裁判」では11年4月22日、軍関与を認める判決が確定したが、今検定でも文科省は「裁判と検定は無関係」とする姿勢は堅持した。
日本史や政治・経済では普天間飛行場返還・移設問題や日米地位協定など沖縄の米軍基地問題が多く取り上げられた。地理と政治・経済では、尖閣問題が多く扱われたが、日本政府の認識と異なり、領土問題があると受け止められる表現に「誤解を招く」などの検定意見が付された。教科書は11年に編集を終えており、米海兵隊のMV22オスプレイの沖縄配備(12年10月)などの記載はなかった。
つまり、「日本兵の命令によって集団自決をとげた」という記述が登場したり、「集団自決」について他には、「強要」、「強いた」、「強いられた」という用語などが登場したということ。しかし、「日本軍の命令」という記述はないということ。これは、文部科学省の見解として、「集団自決」の強制を削除させた、2006年度の検定意見がいまだに撤回されていないためだ。まだまだ、県民の一致した要求でもある検定意見撤回を実現することが重要だということ。
そのほか検定にはいろいろ問題がある。全体の特徴は教科書ネットの声明を紹介。
【談話】2012年度高校教科書の検定結果について
2013年3月26日 子どもと教科書全国ネット21事務局長・俵 義文
文部科学省は、3月26日、2012年度の高等学校教科書の検定の一部を公開した。地歴科・公民科について、現在わかっている点についてコメントする。一、全体的な問題について
1.教科書調査官が作成した調査意見がそのまま検定意見になった比率は相変わらず多く、日本史、世界史、公民科は90%を超えている。
2.小学校、中学校、2011年度検定の高校教科書と同様に、伝統、文化に関する記述が各教科にわたって出現している。
3.日本史の検定意見数および修正表の分量が非常に多い。そのなかで、日本史Bの「歴史と資料」「歴史の解釈」「歴史の説明」「歴史の論述」、日本史Aの「私たちの時代と歴史」「近代の追究」「現代からの探究」のような、学習への導入や歴史的思考を促す項目への検定意見が共通しておおくなっている。これらの項目の意義を否定するものではないが、本来、これらの項目については、もっと自由な発想が尊重されるべきであって、学習指導要領と「解説」の文言を盾に、大幅な書き直しを求めることは適切ではない。
たとえば「現代からの探究」として設定された「エネルギー政策の歴史と現在」では、原文の「『フクシマ』を起点に、日本のエネルギー政策の過去と現在、そして今後の可能性をみていきましょう」という単刀直入な前書きが、現代社会にはさまざまな課題があって、エネルギー問題もその一つで、その歴史と解決策を考えよう、というような抽象的な表現になっている。さらに、文中の「調べてみよう」という課題例から具体的な調査課題が削除され、それにかわって、インターネットを使って調べて話し合いましょう、パソコン、プロジェクターを使って発表しましょう、などの調べる方法、表現方法に重点をおく内容になっている。「沖縄の基地問題」も同様に「史跡を訪ねよう」「体験談で歴史を知ろう」「考えをまとめて発表しよう」などの方法論をくわえて検定に合格している。方法論もあってもよいが、具体的な事実からせまる記述のしかたも認められてしかるべきではないか。二、歴史を歪めたり、あいまいにする、事実や本質を歪める検定
4.協調外交といわれた時期の政府の政策について、「外に向かって侵略をする姿勢は貫かれていました」が「外に向かう姿勢は貫かれていました」に変え、「侵略」を削除した。
5.南京事件について「少なくとも10数万人以上が殺害されました」という通説に「それ以下などの諸説があります」と付加させた。
6.1941年11月5日の御前会議での開戦の決定について、「天皇の決意もあって」が「天皇も納得のうえ」に修正され、天皇の責任をあいまいにした。
7.1947年5月3日の新憲法施行記念式典について「天皇の出席はなく、『君が代』も歌われませんでした」が「雨のなか、皇居二重橋前で行われました」に修正された。
8.「アジア諸国から戦争への無反省に強い批判がおこった」は「アジア諸国で戦争に対する反省がないという批判がおこった」と修正され、表現をうすめさせた。
9.1996年の沖縄県民投票について「沖縄の人々は、日米安保条約という国の政策に関して自己決定権を行使しました」という本質をついた記述は削除され、単に投票結果を記すだけとなった。三、歴史用語について文科省の考えを押しつける
10.タイトルで「台湾征服戦争」の用語を認めないで、単に「台湾征服」「台湾での戦争」に修正させている。ところが、写真の説明では「台湾征服戦争」を認めている。いい加減な検定である。
11.すでに歴史用語として定着している「アジア太平洋戦争」の表記については、本文ではそのまま認めているのに、タイトルでの使用では「アジア太平洋戦争(太平洋戦争)」の併記が引き続き求められている。四、日本政府やアメリカ政府を擁護し、政府の見解を書かせる検定
12.教科書検定問題では、家永教科書裁判の「第3次訴訟最高裁判決で、教科書検定制度は合憲としながらも検定意見に違法があったことが確定しました」という記述に「検定意見に一部違法があった」と修正させた。また、同第2次訴訟の杉本判決について「家永教科書への検定を違憲とする原告勝訴の判決が出ました」という記述に「しかし最高裁で家永敗訴が確定した」ことをわざわざ書き加えさせている。また、1982年の外交問題化した「侵略・進出」問題でも「教科書検定で『侵略』を『進出』と改めさせたため」を「アジアへの侵略の表現を改めるように指示され、書き換えたため」とあいまいな書き方に修正させるなど文科省の立場からの修正を求めている。
13.戦後補償問題では、「日本政府は、個人にかかわる戦後補償については、すでにそれぞれの政府との間で決着している、という立場をとっています」という「側注」を追加させ、すでに解決ずみという政府の立場を書くことが求められている。また、「日本の戦争補償問題はまだ解決されておらず」は「未だに日本と中国・韓国間には歴史認識をめぐる違いがある」に修正され、別の場所に前述と同様の「解決済み」と書かされている。
14.1965年の日韓基本条約の韓国併合は「もはや無効」の文言の解釈について、「日韓両国の対立」があるとの記述は、「見解の相違」に修正された。
15.アフガン戦争、イラク戦争については、政府の立場、アメリカの戦争を擁護する立場の検定意見が引き続きつけられている。例えば、「アフガニスタンに侵攻し」を「アフガニスタンを武力攻撃し」に修正させる、「戦地であるイラク」から「戦地」を削除させ、「多国籍軍の一部隊として支援活動」を「多国籍軍に参加して復興支援活動」に修正させ、「アフガン戦争」「イラク戦争」は「アフガン攻撃」「イラク攻撃」に変えさせ、「復興支援」を「人道支援」に修正させている。
16.自衛隊の海外派兵については、引き続き政府の立場を書かせる検定意見がついている。例えば、アフガンでの「軍事行動」や「イラク戦争のさいには、自衛隊の海外派遣を行った」という記述に対して、「自衛隊が『軍事行動』や『戦争』に派遣されたかのように誤解する」という検定意見で「後方支援や復興支援のため」と追記させている。アフリカのジブチの自衛隊基地建設について、「自衛隊が海外に基地をもつことは、憲法違反の疑いが濃厚である」は「憲法違反との指摘もある」に修正させた。自衛隊は「自国以外の公海や外国の領域で活動できる軍事力(実力)へと質的な転換をとげた」は「自国以外の公海や外国の領域で活動できるものへと質的な転換をとげた」に修正させた。さらに、「日本の集団的自衛権の行使と、自衛隊の海外派遣を禁止した憲法や安全保障政策の原則に反するとの批判をまぬがれない」との本質をついた表現を「…原則に反するのではないか、との批判もある」というあいまいな表現に修正させた。
17.周辺事態法について「集団的自衛権の行使に明確な歯止めがかからない危ういものであった」は「集団的自衛権の行使に明確な歯止めがないとの懸念も指摘された」に修正された。
18. 領土問題も従来通りの検定意見がついている。「固有の領土」と書き加えさせる例や北方領土や竹島は領土問題であるが、尖閣諸島は領土問題はないという日本政府の立場で、尖閣諸島を竹島などと同列で扱う記述には必ず検定意見をつけて修正させている。
19.原発については、「今回の原発災害によって、新規の立地をとめ、災害危険地域と老朽化した設備の運転を停止し、脱原発すべきである」を「…、脱原発をすべきだとする国民の声が広く聞かれるようになった」と弱める表現に修正させている。
20. 派遣労働問題について、「政府もまた、産業界の意向に沿う形で労働者派遣法などの改正を行い」を「政府もまた、産業界の意向に沿うものとの批判もあるなか、労働者派遣法などの改正を行い」に、政府の立場を擁護する表現に修正させた。五、その他、以下のような注目すべき問題がある
21.沖縄戦についての検定意見はまったくなかった。新たに「日本兵の命令によって集団自決をとげた」という記述が登場した。「集団自決」について他には、「強要」、「強いた」、「強いられた」という用語などが登場しているが、「集団自決」の強制を削除させた、2006年度の検定意見がいまだに撤回されていないため日本軍の命令という記述はない。沖縄県民の一致した要求でもある検定意見撤回を実現することがますます重要になっている。
22.日本史Bで、1919年の3・1独立運動後の日本の朝鮮支配政策について、昨年同様に「一定の民主化が行われた」と美化する記述があらわれ、検定で「若干の改善をおこなった」と不十分ながら訂正した。この教科書は、2011年度検定でも同様の検定例のある出版社のものである。私は、昨年の「談話」でも植民地支配の実態を歪める記述だと批判したが、それとまったく同じ記述で検定申請したのは、この出版社の日本史教科書が60%以上の占有率をもっているだけに許せない問題である。植民地支配の実態を歪める記述については、教員・保護者・市民の世論によって是正していくことが重要である。
以上のようないくつもの問題点があるが、その中でこれまでと同様に政府見解を書かせて教科書を「政府の広報誌」にする検定は重大な問題である。いま、自民党と安倍政権は「教育再生」の名で教科書検定制度の改悪をめざしている。その中には、政府見解を「多数説」として教科書に書きこませることが含まれている。今回の検定には、この安倍政権と自民党による検定制度改悪を先取りしたような検定事例が多くみられるが、安倍「教育再生」による検定制度改悪を許せば、こうした事例が一挙に増加する危険性がある。
以上。

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