ポストモラトリアム時代の若者たち ― 社会的排除を超えて
ちょっと気になった本だったので、買って読んでみた。とてもおもしろかった。ひきこもりなどの課題をもった若者の支援などにとりくむ著者たちが書いた若者論。
気鋭の社会学者と心理学者の手によるものだから、最新の知見もつまっている。かつて若者が自身のアイデンティティを確立するためにゆるされていたモラトリアムは、ポストフォーディズムの時代、新自由主義による効率化の時代には許されなくなり、今の若者たちは効率という市場の原理に飲み込まれている。その若者たちはつねに排除される社会、リスクのなかを生きなければいけない。排除される恐れからのスティグマ化と、受けた傷によるトラウマ化の進行にさらされることになる。モラトリアムのための時間と空間を奪われた若者たちはいかにして他者からの承認をうけるのか。そしてどのように生き延びるのか。その例として腐女子が考察される。そして、自己の成長の物語をうしなった若者はペルソナの交換のなかで生き延びる。それなりわかりやすく語られる中身は、とても学ぶことが多いし、なるほど、いまの若者たちはこういうしんどさのなかを生きているのかと痛感させられるのだ。
ただし、物足りなさも感じるのは、そういう理論をもとに語られることもあり、全体として理念的。というか、いまの若者たちいまの社会の現実のなかで生きているわけで、そういう若者をとりまく社会の現実と若者との関連がリアルになされているわけではない。結論として、「大きな物語」の終焉などというお決まりの言葉を言われても…。社会が終わっているわけではない。もちろん。著者たちは、いまの現実の社会を若者が生きていくために、若者たちが地図をつくる、それを大きな地図にしていくことを訴える。つまり、そういう社会全体と切り離せないことは示唆している。だからこそ、その社会全体の構造のなかで具体的に若者のことを論じることが、こういった知見をおさえながら必要だという感じもしているところでもあるのだけれども。
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