大学乱立?まだ必要? 20年で1.5倍、定員割れも
田中文科相の3大学不認可問題がおこったとき、もちろん、この人の個性の問題もあるけれども、背後に、大学をめぐる財界などの意向が強くあり、それを反映しているのだろうなというふうに感じた。だから、あまり、田中さんのスタンドプレー(もちろん、それは批判されるべき、ひどいものではあったけど)だけに目を奪われてしまうと、提示されている問題へのきちんとした批判ができなくなってしまうという感じがした。
たとえば、さっそく朝日では次のような記事が出ている。
大学乱立?まだ必要? 20年で1.5倍、定員割れも(朝日新聞)来春に開学予定の3大学の新設が不認可とされた問題は、二転三転の末、田中真紀子文部科学相が方針を撤回。8日に認可が決まり、ひとまず収束した。一方、大学の「乱立」を指摘し、新設に歯止めをかけようという田中文科相の訴えには賛同する声もある。少子化の中、なぜ大学の新設が続くのか。問題提起を受けた審査体制の見直しは、これから本格化する。
「大学の乱立を止めて質を確保し、時代の要請に合った卒業生を生み出すためにかじを切らなければならない」。7日の衆院文部科学委員会。田中文科相は3大学の新設を認めなかった理由を追及される中、自らの主張を繰り返した。
文科省の学校基本調査によると、1992年には523だった大学の数が、12年にはおよそ1.5倍の783に。進学率の高まりでこの20年間に在籍者数も増えたとはいえ、その伸びが約25%だったことと比べると、大学の増え方は際立っている。91年に大学設置基準が見直され、学部の多様化が進行。さらに小泉内閣の規制緩和の流れを受け、03年度の審査から、従来の大学設置の「抑制方針」を撤廃したことが影響した。04年度には認証機関による評価制度も導入され、むしろ「事後チェック」が強化された。
大学を運営する側の事情もある。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は「短大からの『昇格』が増えた影響が大きい」と指摘する。短大卒の就職環境の悪化で学生集めに苦労するようになった短大が、90年代半ばから盛んに4年制大学への移行を目指すようになったという。短大数はピークだった96年の598から、12年には372に減少。この間、大学数は576から783に増えた。
専門学校を運営する学校法人が「箔(はく)づけ」で大学を設けたり、地方からの若者の流出を防ぐため、自治体の支援を受けて作られたりするケースも目立った。
だが、少子化と競争激化の影響で定員割れに悩む大学は多い。日本私立学校振興・共済事業団(東京)が私立4年制の577大学の状況を調べたところ、今春、入学者が定員を下回る定員割れとなったのは45.8%の264大学。定員に対する入学者の割合が5割未満の大学も18あった。
石渡氏は「18歳人口が減るという予測があるのだから、大学をつくるのなら、社会人学生も見込める主要都市の中心部に置いたり、長い目で見て学生が集まる学部などを考えたりする必要がある。土地が安いからと郊外に置いたり、変わった学部をアピールしたりするような私大は苦戦している」と話す。
ただ、経済協力開発機構(OECD)の加盟諸国の中では、日本の大学進学率はまだ低く、現状では大学の数の抑制に慎重な意見もある。
東京工業大学長や中央教育審議会副会長などを歴任した木村孟氏は、田中文科相が大学の設置認可のありかたを見直すとしたことについて「本人が意識しているかどうかは別として、本質的な部分を突いている」と指摘する。「世界では規制緩和の流れだが、日本には向かないのかもしれない」としつつ、「方向性は、政治家がリーダーシップを発揮して決める必要がある」と言う。
出されている多くの議論は、大学は増えすぎたという議論だ。だから、質を保障するような規制をというのが全体の流れなのだ。規制はどんどんこまかく厳しくなる勢いだ。大学の教育内容にまで介入するのかが危惧される。そして、その規制が提示されるのは、2000年代の規制緩和があったからだと。
だけど、個人的には、ボクは大学は増えすぎたとは思わない。ただ、日本の場合は、社会の側の意識も、大学の側の意識も、いまだユニバーサル時代の大学のありかたを提示できるまでにいたっていないというのが実際のところだと思う。大学がユニーバーサルになった時代の社会と大学のあり方というビジョンをしっかり議論する、そういうことがいま求められていると思う。ところが、たとえば、民主的なと言われるような大学の教員になかでも、大学というのは、学ぶ意思をもった人が、主体的に学ぶところというような考えにとらわれて、そこから、大学の役割を考えるというところがある。そうなると、学生に対しては、自己責任を強い、大学のあり様としてはもっと淘汰されるべきということになるような気がする。
考えれば大学の規制、規制緩和には、いろいろ振り回わされ続けてきた。70年代の総量規制で、都心には大学がつくれなくなり、有名私学も郊外へと展開した。ところがその規制がなくなると、再び、今度は都心にのっぽビルが乱立する。
ただ、そのなかで一貫しているのが学費の高騰問題だ。ボクの学生のころは学費は9万円台、初年度でも15万円もしなかった。私学は40万円台が主流で、安い私学は20万円台だった。それが、いまではどうだ。私学では、100万円~200万円へと高騰している。そこの改善はなぜか議論がなされないのだ。その不思議さも考えてほしいと思う。
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