若者が無縁化する─仕事・福祉・コミュニティでつなぐ
この著者、宮本みち子さんが『若者が≪社会的弱者≫に転落する』(洋泉社新書)を出してからもうすでに10年。この本が予想した若者の未来は、残念なことにほとんど的中したといえるほど、衝撃をもたらした本であるけれど、当時はいろいろな議論をまきおこしたわけで、いろいろな思い出もある本である。
さて、この本のほうであるけれど、あれから10年。若者の状態は正直、底が抜けたように酷くなっている。冒頭、そのさまを貧困、さらには社会的な排除という視点から描いていく。実は、若者問題の議論ほど難しいものはない。正直、大きな視点からも、ミクロの視点からも、この問題の社会的な合意という点からはかなり遠いところにある。しかも、若者問題の議論が一定進んでいるヨーロッパに比べて、日本の若者の取り巻く状況は、強い競争と自己責任のもとにおかれて特異な事態のもとにある。そういうなかで、若者自身の実態も多様化している。孤立だとか、多様化というものがここでも、キーワードになる。その背景には、社会の変容があるが、それは明らかに資本主義の発展と資本の支配のありようが対応している。そこで若者の問題を議論する時には、個別を意識した総合的な視点こそが大事なのだと思う。この本は、若者の貧困の問題を基礎におきながらも、雇用だけにとどまらない多面的な若者政策について論じられていて、そこが著者の真骨頂だと思う。雇用をはじめここの問題では、いろいろ議論もおこりうるだろうけれども、その総合的な視点という点で、この本は、必読書だと思う。
ただそれでも、若者問題というのは、2重3重の意味で新しい課題であり、一筋縄ではいかない。専攻するヨーロッパの政策も、それが正解だという保障はまったくない。最近も、イギリスの若者施策の問題について、労働政策研修研究機構のHPで、レポートが掲載されていたけれども。だから、簡単に答えをもとめないということで、心して掛からなければいけない。同時に、ここで、紹介されている実践については、相当、興味や関心をもたせてくれるのだけれども。
同時に、やっぱりもっと慎重に、いろいろな議論も広げていかなければいけないのだと思う。雇用の問題とともに、社会保障というのが若者問題でも必要になってくることは、言うまでもないのだけども、この本でも、最近はやりの「人生前半の社会保障」という言い方がされる。半面その指摘は正しいと思うのだけれども、一方で、これはあきらかに人生後半の社会保障との対立図式がつくられる。実際には、後半の社会保障も決して豊かではない。若者や子ども期の社会保障の意義を強調しなくてはいけないのだけれども、対立図式をつくれば結果的には、社会保障全体がやられてしまいかねないというのが現状なのだと思う。そのあたりのイデオロギー状況はよくふまえなければいけないとも考えさせられる。
英知をもっともっと集めて、ちゃんと体系化する必要性は痛感させられる。若者問題はいまやはやりだけれど、うまく整理されていたり、政策化に貢献するという点ではまだまだなんだと思う。宿題を見せつけられるような感じがした。
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