子ども理解と自己理解
田中孝彦さんの新著、少したったけど、読み終えた。臨床教育学という分野を切り開き、子どもの声に耳を澄ますという実践をすすめておられる田中さんだけれど、この本では、田中さん自身が聞きとられる側となり、さまざまな問題での自身の考えを、じっくりと語る。そういう応答の行為の中で、自身の考えも豊かになっていくということがよくわかるし、それだけ、聞きとる側の人たちも、魅力ある聞き手の役割をはたしているのが特徴。
本書の前半はそうした編集者との応答が中心で、まんなかのかたまりが、臨床教育学と教師教育についてのカリキュラムなので、そうした田中さんの教育学を体系的に理解するうえでとてもわかりやすいものになっている。
後半は、自身の育ちと自身がどのように教育学を学んできたかという問題。堀尾先生の発達教育学から、どのような問題意識と、実践との切り結びの中で、臨床教育学という分野に足をふみだしていったのかという過程はとても興味深い。つねに、子どもと向き合い、子どものなかにある主体というものを意識しながらも、その発達をささえる支援者の苦労をうめとめ、その力量を豊かにしていくのか。田中先生の問題意識がつまった、わかりやすい”語り”の一冊になっている。(かもがわ出版刊)
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