イギリスに学ぶ子どもの貧困解決 日本の「子どもの貧困対策法」にむけて
なぜ、この問題の解決は、なかなかすすまないのだろう。正直言って、この課題にとりくみはじめたとき、もう少し事態は変わるのではないかと思ったけど。そんなふうに感じている人も多いのではないだろうか。だけど、最近、発表された貧困率でも子どもの貧困は15・7%となり、史上最悪の事態だ。しかも、震災である。だけど、だからこそ、あとがきの湯澤さんの文章にあるように、この本とともに、考えたいとも思う。
この本では、日弁連の人たちのイギリス調査の報告で、イギリスでは子どもの貧困対策がどのようにすすめられているのかが報告される。次に日本の研究者による解説で、とりわけその軸となるショア・スタートなどの解説である。たしかに、イギリスの制度がそのまま日本に通用するわけではない。そもそもイギリスの制度なんてころころ変わるので有名な国だ。しかも、新自由主義の最先端を行く国で、いまの福祉国家型とは少し外れている気もする。日本とは、福祉の制度という点ではかなりちがうし。だけど、この本を読んでいると、やはり学ばなければいけないと思う。イギリスで子どもの貧困対策の中心をになったフランさんが、対策への経過を紹介する。そこから学ぶことは何なのだろうか。
それは、何よりも、貧困とは何か。この点での考え方についての議論と合意。いわば国民的な思想というか、そういうものの形成の大事さである。日本でもそうだけど、子どもの貧困は、子どもの問題だから、合意がとりやすいと考えがちだ。たしかに未来を生きる子どもたちの権利を保障する点からも、そのことは間違いではない。だけど、同時に、大切なのは、なぜ、そういう貧困があってはならないかということへの合意なのだ。それは、○○の貧困ということで、貧困に差をつけたり、排除したりすることでは決してない。そうした合意を、イギリスの貧困の伝統を背景に、調査にもとづいてすすめる。これはとても大事だと思う。
イギリスがたどった政策形成、その継続性、つまり子どもの貧困と若者の貧困の継続性と、若者の貧困が親世代の貧困と同義であり、連鎖につながるという点で一体の問題であるということのうえでの、継続的なとりくみや、包括的なとりくみ。ここには調査の力と貧困へのしっかりした考えがあるという印象をうける。
そしてそれを支える多様な運動の広がり。運動をになう人たち、それを支える社会的な基盤というものがあるのだろうなあ。そういう意味では、中嶋さんや山野さんの示唆の多い文章を、もっと突っ込んで議論してほしいものだなあ。
とても短い、昨年のシンポをもとにした報告集だけど、これからの議論と運動にとって、とても勉強になる本でもあったのである。
« 八重山教科書:国の判断「統制の始まり」 | トップページ | 大阪維新の会府議団、職員・教育の2条例案を議長に提出 »
「教育」カテゴリの記事
- 10月号ができました(2024.09.11)
- 河野大臣「自由に働き方を決められる制度が大事」 希望者には“勤務時間の上限廃止”も 働き方の規制緩和を表明(2024.09.05)
- 小1の不登校が2年で倍増 「幼・保・小」の連携で対応(2024.09.01)
- 自衛隊、宮古・八重山や奄美に新拠点検討 2025年度の概算要求 訓練場や補給の適地有無を調査 2027年度には那覇に対空電子戦部隊(2024.08.31)
- 2学期がはじまっています(2024.08.29)
「読書」カテゴリの記事
- 10月号ができました(2024.09.11)
- 「歴史抹殺の態度を変えさせなければ」8月31日に都内で関東大震災朝鮮人・中国人虐殺犠牲者の追悼大会(2024.08.25)
- 木原稔防衛相、終戦の日に靖国神社に参拝 韓国「時代錯誤的」と反発 :「ニライカナイには行けない」(2024.08.15)
- 9月号ができています(2024.08.12)
- 『沖縄県知事 島田叡と沖縄戦』と「島守の塔」(2024.07.28)
「政治」カテゴリの記事
- 10月号ができました(2024.09.11)
- 「エイジアン・ブルー 浮島丸サコン」(2024.09.10)
- 赤旗日曜版にJCJ大賞 自民派閥の政治資金不記載(2024.09.09)
- 河野大臣「自由に働き方を決められる制度が大事」 希望者には“勤務時間の上限廃止”も 働き方の規制緩和を表明(2024.09.05)
- 沖縄県の原告適格性、二審でも認めず 県は上告を検討 高裁那覇支部 新基地建設を巡る県と国の14訴訟で最後の係争案件 玉城デニー知事「残念」(2024.09.03)
「経済」カテゴリの記事
- 「エイジアン・ブルー 浮島丸サコン」(2024.09.10)
- 赤旗日曜版にJCJ大賞 自民派閥の政治資金不記載(2024.09.09)
- 河野大臣「自由に働き方を決められる制度が大事」 希望者には“勤務時間の上限廃止”も 働き方の規制緩和を表明(2024.09.05)
- 小1の不登校が2年で倍増 「幼・保・小」の連携で対応(2024.09.01)
- 私の問題から、みんなの問題に(2024.08.28)
« 八重山教科書:国の判断「統制の始まり」 | トップページ | 大阪維新の会府議団、職員・教育の2条例案を議長に提出 »
コメント