日米行政協定の政治史 日米地位協定研究序説
やっと、読み終えた。ずいぶん前に買ってあって、パラパラと活用することはあったけど、じっくり読みとおしてみた。実証的な研究書などで、だいぶ時間がかかったなあ。
今年は、サンフランシスコ講和条約から60年目の年。9月で安保条約への署名から60年の月日がたつ。この講和―安保の体制とは、何だったのか。その大きな柱が、占領下のアメリカの基地をめぐる特権をいかに講和後も引き継ぐのかにあったことを明らかにする。それが、全土基地方式という世界に類のない方式と、数々の基地をめぐる特権である。
この体制の形成・維持の過程では、さまざまなプレーヤーが登場する。アメリカで言えば、直接の交渉をになったダレスやラスク、その後のマッカーサーなどとともに、国務省や国防総省、議会というものがある。日本側は、吉田や鳩山、岸といったメンバーとともに、保守政治の傍流や社会党、そして国民のたたかいがある。
この体制は、講和条約で書かなかったことを、安保で書き、そこでも書かなかったことを、行政協定で書き、そこで書かなかったことを交換公文や、各種の合意文書などにするという構造としてつくられていく。国民の目にふれないような3重、4重もの構造としてつくられていく。
なぜ、そのような構造としてつくられていったのか。あらためて、日本政府が当時の平和運動、基地闘争の背後に共産主義の脅威を見ていたことを痛感する。敗戦への過程での近衛の発言や、敗戦後の昭和天皇の発言、吉田首相の『回想十年』に見られるような、共産主義への敵意などが重なってくる。
そして、こうした構造が、安保改定や沖縄返還の過程で、深化していくのだ。それは、なぜ、安保に対して、日本の支配層が思考停止になってしまっているのかの一つの、そして大きな要因となっていったのだと痛感させられる。
残念ながら、こうした研究は、戦後の歴史学のなかでも、そうたくさんあるわけではない。そのぐらいの労作だなあ! ほんとにおもしろかった本なのだ。
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