児童養護施設の子どもたち
いまほど虐待がクローズアップされる前から、この問題に正面から向き合ったルポなどの作品がある。たとえば漫画の『凍りついた瞳』などはそうだし、小説で言えば『永遠の仔』なんてそうかもしれない。ルポで言えば、この本がそうで、2002~03年に出版された『明日がある──虐待を受けた子どもたち』『明日がある──児童養護施設の子どもたち』(いずれも芳賀書店)を元に大幅加筆修正されたものだ。
80日間、児童養護施設に暮らすなどのなかで、相当、ていねいに子どもの声が聞きとられている。そして、10年近くの時をへて、その後の子どもたちの成長なども追加取材されている。安心できる人間関係がつくられていけば、子どもは大きく成長する、その姿に読む側も勇気を与えられる(とくに彩美の章は秀逸)。大久保さんといえば、ボク的には中国残留孤児について追っかけ続けていた記者さんというイメージがあるけれども、同じ、土俵で、見つめつているのだなあと。
本書は、虐待の社会的背景などもおっかけたものではない。だけど、虐待の問題を理解するうえでも、まず、子どもたちの声に耳を傾けることから出発すべきでもある。そこから見えてくる問題がある。たとえば、安定的な人間関係のなかで、生活できるようになることが一番もとめられているのに、いまだ児童養護施設は大舎制のところが中心で、その根底には、職員の配置の基準が30年以上も変わっていない貧困な状況にあることがわかる。やっと、その基準の見直しが表明されているわけだけれども、本格的にケアをするだけの体制にはいまだ遠い。ましてや、家族への支援などにほほど遠い。結局は、子どもが我慢するしかない社会でもあるのだ。
こんな本を読むと、自分の子育てをふり返る。自分はほんとうに子どもを傷つけていなかったのか、実は決定的なところで、子どもと向き合いきれなかったのではないかと、いろいろ考える。がんばってきたのになあと思いつつ、揺れ、後悔する。
同時に、その根底には、自分の子ども時代の問題にぶちあたる。やっぱり典型的なACじゃん(苦笑)。なかなか解決できず、向き合えないのだけど。重い問題でもあるのだけど。
« 避難準備区域に子供1700人…親の仕事で戻る | トップページ | 6・9比例定数削減に反対する大集会 »
「教育」カテゴリの記事
- 体験談を積み重ねて見いだした「軍隊は住民を守らない」 平和教育の専門家、西田氏の「謝罪」による沖縄ヘイトを危惧(2025.05.10)
- 自民・西田氏の「ひめゆり歴史書き換え」発言、県議会が抗議へ 自民県連の動向注目 沖縄(2025.05.06)
- 戦犯死刑囚 スガモプリズンの日々(2025.04.26)
- あえぐ地方大、探る活路 県唯一の法学部、単科大募集停止(2025.04.23)
- 川崎市で年度当初の教員未配置122人 市民団体「解消を」訴え(2025.04.22)
「読書」カテゴリの記事
- 6月号ができています(2025.05.11)
- 沖縄県民の戦場動員は行政にも責任 関東学院大名誉教授の林博史さん 4月17日発刊の新著で網羅的に解説(2025.04.17)
- 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(2025.03.11)
- 絵本作家のいわむらかずおさんが逝去 フジテレビ労組、組合員が急増 専務が労組とのやり取りで辞意表明(2025.01.23)
- いのち・人権・平和、 響きあう想いをことばにのせて 落合恵子 × 藤井克徳(2025.01.22)
「政治」カテゴリの記事
- 「日本軍は県民を殺していない」 沖縄戦を巡り参政党・神谷代表 自民・西田氏の発言に同調 青森で街頭演説(2025.05.13)
- 旧日本軍の元従軍慰安婦が死去、生存者は6人に…韓国政府「残された被害者の名誉回復に尽力する」(2025.05.12)
- 6月号ができています(2025.05.11)
- 体験談を積み重ねて見いだした「軍隊は住民を守らない」 平和教育の専門家、西田氏の「謝罪」による沖縄ヘイトを危惧(2025.05.10)
- 自民・西田議員、「歴史の書き換え」発言を削除 「非常に不適切だった」と沖縄県民に謝罪(2025.05.09)
「経済」カテゴリの記事
- 旧日本軍の元従軍慰安婦が死去、生存者は6人に…韓国政府「残された被害者の名誉回復に尽力する」(2025.05.12)
- 在日米軍 性的暴行2070件 横須賀突出 半数は沖縄県内 8年間の申告数(2025.05.08)
- 玉木雄一郎氏 日本経済復活へ“働きがい改革”提唱 「残業減らそうみたいな話だけど、私はむしろ…」(2025.05.01)
- 【速報】女子高校生殺人事件 逮捕された男(25) 新たな供述「制服着た女子高校生を包丁で殺した」と容疑認める 「殺害する女性を探していた」「自分は社会の底辺にいる」とも供述(2025.04.30)
- 「“権力”と性暴力」(2025.04.28)
「若者」カテゴリの記事
- 玉木雄一郎氏 日本経済復活へ“働きがい改革”提唱 「残業減らそうみたいな話だけど、私はむしろ…」(2025.05.01)
- 「玉木首相」なら即解散? 「地下アイドル」脱した党首が目指すもの(2025.04.29)
- あえぐ地方大、探る活路 県唯一の法学部、単科大募集停止(2025.04.23)
- 一部私大「義務教育のような授業」 財務省が指摘 文科省幹部は異論(2025.04.16)
- 「しあわせは食べて寝て待て」(2025.04.02)
コメント