ドキュメント 請負労働180日
研究者の手による、派遣・請負労働の参与観察の記録である。筆者の書いたこのテーマでの論文は、学会誌などで何本か読んでいて注目していた。もし、この本が、もっと早く出ていたら、いっそうその意味は大きかっただろうなってつくずく思う。それを横に置いても、おもしろかった。
何よりも、こういう非正規の働かせ方の実態というもの。結局、そこには人間の尊厳を大事にするという考えがみじんも存在しない。この派遣という働かせ方の根底には、この問題があることをよくわからせてくれる。しかも、その派遣・偽装請負などの働かせ方の中で、生産の管理までは、非正規労働者によって担わされているというおそろしさだ。彼が、参与観察をおこなった以降、派遣切りが荒れ狂い、派遣村などのとりくみがあり、派遣法の改正の議論につながっている。しかし、実際に政治の舞台に出されている「改正」案は、この根本の問題にまでメスをいれるものになっていないこともよくわかる。
そういうなかで、彼は、派遣労働者のなかでのネットワークに注目する。そのなかでの、情報の交換などのつながりは、たしかに、たたかいとは違うものだけれども、そういう非人間的な働かせ方への、間接的な抗議として、裾野を形成する入り口なのかもしれない。
そして、問題が人間の尊厳への姿勢であるのなら、正規労働者のなかにある異常な働かせ方の解決がなければ問題は解決しない。いま、そこにいる若者たちが、人として大事にされるような取り組みと一体に、この問題の解決もしていかなければならないということを考えさせてくれるものになっているのだ。
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