深く掘れ 己の胸中の泉 沖縄学のまなざし
ものすごい番組だった…。今日のETV特集。
00年前の1911年、琉球最古の歌謡集「おもろさうし」の解読を中心に据えた沖縄文化再発見の書が出版された。伊波普猷著『古琉球』。“沖縄学の父”とも呼ばれる伊波は、沖縄が日本に組み込まれ、その文化が根こそぎ否定された時代に、かつて琉球の村々で歌われていた神歌「おもろ」を解読し、沖縄文化の価値を世に問おうとしたのである。それは、近現代史の荒波に翻弄され続けてきた沖縄にあって、独自の文化価値を確認し、自立の道を模索してきた沖縄学の起点であった。 その後、沖縄学は、仲宗根政善等によって継承されてゆく。ひめゆり学徒隊を引率し、その史実を訴え続けたことで知られる仲宗根は、伊波のまな弟子だった。仲宗根は、アメリカ軍統治下の沖縄で、故郷の方言の中に、沖縄の心を探し続けた。 琉球処分、沖縄戦、占領、本土復帰。いつの時代にも、沖縄学は、言語学・民俗学を中心に据えた学問でありながら、常に時代と向き合い続けることを宿命づけられてきた。伊波普は最後の著作となった『沖縄歴史物語』を次のように結んでいる。「地球上で帝国主義が終わりを告げる時、沖縄人は「にが世」から解放されて「あま世」を楽しみ十分にその個性を生かして、世界の文化に貢献できる」 しかし「あま世」は遠い。普天間基地は、沖縄県民の総意を無視するように県内移設移の方向が模索されている。伊波が創始した沖縄学は今、私たちに何を語りかけるのだろう。 番組では、沖縄文化の魅力を味わいながら、伊波普とそれに連なる“沖縄学”100年の系譜を近現代史の中にたどる。それは沖縄学のまなざしから沖縄の現在を見据えることである。
「彼ほど沖縄を識った人はいない 彼ほど沖縄を愛した人はいない 彼ほど沖縄を憂えた人はいない 彼は識ったが為に愛し愛したために憂えた 彼は学者であり愛郷者であり予言者でもあった」――伊波の顕彰碑刻まれた言葉である。「おもろさうし」の研究、沖縄学で知られる伊波のことは、ボクだって少しぐらいは知っている。だけど、まず、伊波が、沖縄への思いと、それが本土の支配のなかでふみにじられていくなかで、しかもそれが、戦争における総動員のなかで、いかに沖縄の独自性への思いに揺れたのかということに心を揺さぶられる。ちょうど、『沖縄 空白の一年』の冒頭に、伊波が、アメリカが沖縄に上陸したときに東京によせた、琉球人の奮戦に期待を寄せる文章が紹介されている。そのときの伊波の思いがどういうものだったのか、苦悩と沖縄への思いに揺れる伊波の心情をものすごく考えさせられた。
後半は、仲宗根の話だ。そうひめゆりを引率した先生だ。占領下のなかで沖縄を問い続けた。いつになったら沖縄人にとって、この島が自分の島だという思いを取り戻せるかという言葉があまりにも重すぎる。彼もまた、沖縄にこだわって、時代に翻弄される沖縄に向き合ったのか。
おして話は現代へ。伊波の死んだ日は、いくしくも沖国大に米軍ヘリが墜落した8月13日だ。いまだ、占領下と違わない沖縄の姿が映し出される。沖縄県民はそれでも、自分たちとは何ものかを問い、基地のない沖縄の主張する。その思いの強さの根源には、こういう歴史もまたある。これは強烈。政治はそんなことには無理解だ。
文化というものは、自分のアイデンティティということにかかわる。だけど、根無し草のボクらは、そういう問題には無関心だ。だけど、文化というものは他者を知るということでもある。文化を抑圧する暴力にたいして、疑問や怒りを感じない人間は、他者とつながれない。そういう思いに射貫かれてしまう。
何もわかっていない自分。そこから出発しなければいけないと。
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