無縁社会―「無縁死」三万二千人の衝撃(本)
話題になったNHKスペシャルが本になった。
すぐ読んでみた。ものすごくおもしろかった。たぶん、テレビのときより深まっている。膨大な取材が伺える。そこからは、番組以上にその背景がわかってくる。取材の方法は記者の個性があるのだろうけれど、とくに目を引いたのは、団地の一人暮らしを追った蔵端さんの取材。一人ぐらしの方を洗い出し、丹念に聞き取りを重ねて、分析する。そこからわかるものは多い。だから、番組のときにふれられなかった背景、経済環境などにもある程度迫っている。貴重なものになっている。
これは大きな社会の課題であるということも迫ってくる。
だけど、それでも、やっぱり全体としては語りきっていないものがあるように思えてならない。
1つは、簡単に言えば、この無縁というのは、誰にも同じように降り注いでくるものなのだろうかという問題。もちろん、無縁となるのは、偶然に左右されるケースが多いし、誰もがそうなる可能性もある。だけど、同じようにそのリスクを背負っているのだろうか。むしろ、そういう困難を背負っている人に、支援がない”無援”状況がいまの社会にあるのではないかという問題。
2つめが、”縁”とは何だろうかという問題。ここでは「墓」ということが強調される。でも、ボクらはむしろ、そういうかつての「家」の縛りから離れることをめざしてきたのではなかったのか。むしろ、この縛りからの解放はいまなお、日本社会の課題という面もあるように思う。ボクだって、自分が死んだ後、家の墓に入ることなど想像できないし、相方などボクの家の墓に入るなどまったく考えているとは思えない。
むしろ、そういうこれまでの”縁”を断ち切った社会にふさわしい、”縁”がつくられるようなことができていない社会の有りようこそ問われなければいけないのだけれども。
3つめは、では、”縁”のない人の問題は、その人たちだけの問題なのかという問題。ボクは家族をもっているけれども、ボクの実感としては、むしろ、すでに成人した子どもが本当に自立ができるのかという問題。家族というものにすべての責任を追わせるような社会の有りようと、この”無縁”という問題は、実は表裏一体の問題ではないのだろうか。
いま本当に問われていることは何なのか? そのことを真剣に考えなければいけない。そのうえで、この本は、とっても大事な問題を提起していると思うと同時に、まだまだ深まっていない問題もボクらは考えていかなければいけないと、つくづく考えさせられたのだ。
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