NHK、鉄の沈黙はだれのために
ものすごく赤裸々な本である。10年前の番組改変問題の当事者が、語った本である。これまで、いろいろ推測されていたことが、当事者の言葉として語られている。NHK幹部の、会長の指示を示唆した言葉など、知らなかったことなどもたくさん書いてある。なによりも、すべてが実名で書かれたこの本は、筆者の思いがそこに込められているのだろうと思う。それぐらい、この事件の、真ん中にいた、筆者の真摯な態度が伝わってくる。
ただ、この本への違和感として、ボクの知り合いの放送関係者は下請けへの責任の無自覚を指摘した。ボクはそんなことと違う違和感をもった。NHKの人から話を聞くと、「うまくやる」という言葉がよく出てくる。この事件も、当事者たちがうまくやれなかったということを指摘していることを聞いたことがある。この本で、彼もうまくやれなかったという思いがにじみ出ている。本当にそうだろうか。政治家との対応にうまくやれなかったことが問題なのだろうか。政治家が放送に介入することは許されないけれども、何か意見をいうことはありうる。それを世論が支持したときには、どういう態度をとるのだろうか。「うまくやる」ということには、そういう危険性がつきまとう。ボクは、より問題なのは、とりあつかおうとしている認識そのものがどうだったのかということがことの本質だと思う。もちろん、ジャーナリストは研究者と違って、専門的な知識には限度がある。でも、それでも、判断を下す。それが”認識”ということではないのだろうか。もちろん、うまくやる――いろいろな政治的な配慮を考えたり、読者の反応を考えるということは必要なことだろうけれども、やっぱり、根本には、自分はどう考えているのか、そのことに責任を負う、それはジャーナリストとしての、大きな仕事だと思う。少ない部数だけれども、メディアにかかわる人間として、やっぱり心しておきたいと痛感させられる。
それでも、この本は、筆者の葛藤が伝わってくる、真に迫る一冊である。それが、NHKに問いかけている問題も大きい。政治家の介入、そしてそれへの組織的な追随。それは、いまでも、決して解決したとは思えない。その意味では、NHKは、筆者の問題提起にこたえるべき責任があるとボクは思う。
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震災後、NHKがうちの近所の市場に取材にきて、NHKスペシャル「○○市場はなぜ倒壊しなかったか」という番組を作ったの。震災直前に、このあたりは元は海辺の砂地であったから、基礎を通常より深く打たなければだめだ、と市場の会長さんたちが一軒一軒説得してまわって、通常の工費の倍かけて、深く支柱を打ったのよ。だから倒壊しなかったんだけど、その話を施工した設計事務所が市場を説得した話にすりかえられて放映されてたから、市場のひとも私たち近隣のものも唖然としたの。市場の人たちはたいへん傷ついたの。それ以来NHKのドキュメントは話半分にしかみない。NHKだけじゃなく、どんなニュースもルポも、制作者の意図で事実は事実として伝わらないことを知ったわ。新聞記事だって書き手のフィクションがはいってると思ってます。
投稿: 芳芳 | 2010/09/02 00:11
うーん、重い言葉だなあ。心せねば。取材というのもは、どんなに、そこに迫っても、事実をある側面からしか見ないことは否定できないもの。それだけに、そのことをとりあげる、取材者、編集者の、意図――認識そのものが問われる。もちろん、よこしまな思いからものを書く人もいる。でも、この仕事をしていて、NHKだとか、新聞関係にも知り合いは少なくないけれども、優れたジャーナリストもいっぱいいる。ジャーナリストが発掘する真理があることもまだ事実だから。人間の認識は、どうしても一面的にならざるを得ない、そのもとでも、そのことがらと、どう向き合おうとしているのか。結局は、その姿勢が、決めると思うのだけれども。その意味でも、この本の永田さんは、葛藤や動揺、反省、その中途半端さも含めて、赤裸々に書いていて、胸を打つ一冊ではあることは事実。
投稿: YOU→芳芳 | 2010/09/02 00:37