「普天間」交渉秘録
守屋元防衛事務次官の書いた『「普天間」交渉秘録』を読んだ。「普天間返還・移設」をめぐる交渉の日本側の事務方のトップだった人間のものだけに、いかにも生々しい。
ただ、面白いのは、この本の最後に著者による「将来に向けての日本の防衛」という小論が書かれているが、ここでのべられている、米海兵隊の抑止力というのは、決して北朝鮮や中国の脅威というものに対してものではなく、世界の安全保障という名目で、不安定の弧のとくに中東やインド洋に目を向けたものであるということが書いてあったりする。
防衛省のトップだった人間の手によるものだけに、目指すもの、課題と考えていることもはっきりしている。憲法9条の「改正」によるグローバルな責任の発揮だ。この間、イラクなどの派遣で、帰国後の自殺者は16人にのぼる。これだけの犠牲を払っているのだから、きちんとした軍隊とあつかうべきだと。
さて、「普天間」をめぐるやりとりである。やりとりそのもののについては、特段、目新しいものがあるわけではない。守屋は、海兵隊の抑止力を前提に、「県内移設」に固執し、反対勢力の封じ込めのために、陸上案そしてL字型案をすすめる。ここに、土建利害と先延ばしをすすめる沖縄の政治勢力、そことの関係をもつ政治家集団とのやりとりというものが全編貫かれている。
何よりも、沖縄県民とのあいだでの、この問題での深い矛盾ということについては、まったく自覚はない。そんな声は、県内でもごく一部なのだとしか理解がない。だから、本の中には県民のたたかいなどはまったく視野のそとにある。県内の有力者しか登場してこない。これは、一面、中央官僚の特徴なのかもしれない。彼らは主には地方の政治家や役人、有力者を相手にしている。
もう1つ、アメリカの政府や軍事当局からの圧力は、直接はそう書かれているわけではないが、それなりに読みとることができるようなものにもなっている。
中央官僚は、ここまで、政治にコミットするものかということも驚かされる。政権党のシンクタンクということそのものは、必ずしもまちがっているとは思わないけれども、自民党の政治家が調整者型の役割をになったとき、その調整をひっぱるような政治的な理念を強く発揮しているということができるのだ。ここには、政治家と官僚との関係に大きな歪みがあると思えてならない。そのときに、じゃあ官僚を封じ込めばいいのかと言えばそんなに単純ではない。専門的な判断をへない政治主導は迷走する。結局、国民とむすびき、国民の支持される形での理念的判断を政治家がなさないといけない。ここで、官僚のもつ専門的な知識をとりこむような形で。結局、この点で、国家機構が変わっていかないと、政治は変わらないということなのかなあ。
しかし、かくも愚かな、日本政府と沖縄の保守政治家とのやりとりである。革新的な側の、県民とむすびついた国政への働きかけ、これが政府を追い詰める局面が、秋以降つくられることを期待したいものだ。
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