ノンエリート青年の社会空間 働くこと、生きること、「大人になる」ということ
ものすごく、読み応えのある、一冊だった。すごい本だ。最近読んだ本のなかでは、3本の指に入る。筆者の1人がおくってくれたもので、感謝である。だいたいこの種の本を読むときには、いつも、自分の子どものことを考えてしまうのだけれども。リアルなはなしであるだけに、読むのは一方で、かなりつらく、苦しかったりする。
さて、出版社の説明には次のようにある。
寄る辺なき社会のなかに、新たな〈自立〉の形を模索する引っ越し屋や自転車メッセンジャー、請負労働者、フリーター…。標準的ライフコースから外れた青年たちが、不安定な雇用と生活環境のもとで、なお「何とかやっていける」空間を自ら築こうとする姿を、綿密なフィールドワークにより描き出す。労働・生活・文化にわたる実証的研究を通じ、若者/青年研究をさらに深化する試み。
まず、中西先生が、問題提起をする。「なんとなくやっていく」世界を、いわば大人のドグマから見るのではなく、青年の主体性と自律の姿からとらえるということに、ガーンと頭をなぐられた気分になる。つづいて、5本のききとりと参与観察からなる考察が続く。専門学校生(植上一希)、自転車メッセンジャー(神野賢二)、引っ越し屋(山根清宏)、請負労働(戸室健作)、高卒若年女性(杉田真衣)。この5本がこの本のメインでもある。これが、それぞれすごいのだ。植上さん、戸室さん、杉田さんのものは、それぞれ別の論文を読んだことがあったけれど、山根さん、神野さんのものははじめて。メッセンジャーの文化や引っ越し屋のキャリア形成と生活者としてのアイデンティティの形成などとても興味深かった。そして、最後に、高山さんが、これまでの若者/青年研究のうえにたち、批判的に考察しながら、なぜ「ノンエリート青年」という視角を提示するのかについてのべる。
最後の高山論文など、論争的で、なかなかこなせないし、自分の考えている角度との違いも感じるところがあるのだけれども、受けとめなければいけない論点も多すぎるほどあるのだと思う。
しかし5本の報告を読んでいて、いかにいまの若者たちの生きる世界、生活環境が不安定であるのかということはあらためて痛感させられる。 しかも、それは、近年の社会の構造的な変化のもとでおこなわれているということでもある。いわば、当事者の若者からみれば、選択することのできないような困難が押しつけられるということを意味する。そのなかで、若者/青年は、大人から見れば、たぶんだらしがなかったり、そんな無謀な選択をどうしているのだろうかと思われるような仕方も含め、おこなっていく。そこで、大切にされるのが、地域や職場での人とのつながりなのだと思う。親密な人間関係を、それはときには括弧つきではあるのだろうけれども、つくりあげていっている。「居場所」とよくいわれるけれども、その意味やありようを、ボクらはもっとていねいに、若者そのものがつくりあげていることそのものをよく理解する必要があるのだろうなと思う。そして、そのつながりをベースにしながら、小さな試行錯誤と選択をくり返し、生きること、働くことの意味を自分なりに自分のものにして、「大人になっていく」。
もちろん、そこには、大きな限界も、障害もある。しかし、型にはまった答えをおしつけるのではなく、青年/若者たちの、そういう営みを大事にし、よりそうというような姿勢で、限界や障害を乗り越える方策もいっしょに考えていきたいものだと思う。
格差と貧困のひろがりのなか、このノンエリート青年は、若者/青年の大きな部分をしめるようになっている。その境界はグラディエーションのようだろうけれども、まちがいなく若者の不安定を照らし出すものともなっている。たぶん。
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