子どもの貧困白書 感想
ちょっと時間がかかったけれど、やっと完読しました(苦笑)。だって、分厚いし、大きいし、持ち歩きに不便。でも、増刷になったようなので、よかったですね。
さて、感想です。100人を超える人たちが原稿をよせた、これそのものが社会的連帯の1つの証ですね。研究者と、現場の実践家の手によって、子どもの貧困の意味、そして、どれだけ、子どもの貧困というのものが見えなくされてきたのかが、明らかにされています。とくに、阿部さん流に言えば、”中流神話”のある日本で、貧困への支援の社会的な合意が十分につくられていない現状のもとで、どのような貧困が、見えなくされてきたのかを、ていていに明らかにする仕事は、いまのように「子どもの貧困」があるていど社会的に光があたるようになったもとでこそ、いっそう重要になっていて、その要請に、この本は見事に応えているということができると思います。
このブログでも何度も指摘しているように、2000年代の半ばに入って、明らかに、子どものいる世帯の経済的な困難が、劇的にといっていいほど広がりました。なぜ、劇的かというと、もともと、十分な社会保障の制度がない国で、社会保障の切り捨てがおこなわれ、そこに経済的困難が雇用の悪化を軸に、かぶさったからだと思います。ボクは、ほんとうに今年の秋から冬にかけて、悲劇的な事件が続発しないか、かなり心配しています。
子どもの貧困にどう向き合うべきなのか。この本からも学べる点でもあるのですが、1つは、太い、だれでもが利用できるような教育や社会保障の制度の再建です。現状では、義務教育ですら、多額のお金が必要です。保育や、医療なども、貧困対策の範囲を超えて、無料・低額という本来あるべき姿を考えなければなりません。こうした基本となる教育や社会保障の骨格がないと、かならず、貧困世帯とそうでない世帯のとの間に、分断が持ち込まれます。ところが、日本では、ここの議論はかならずしも豊かにおこなわれているとは言えません。高校の無償化でさえ、所得制限という議論が出てきます。教育や保育・医療の無償化、低額化という問題については、もっとボクらもよく勉強しなければならないし、よく考えなければいけない問題だと思うのです。
2つめには、セーフティネットの再建です。生活保護や失業給付という本筋のものもそうですが、個別の実態にそくした、社会福祉のありようなど、もっと多くの人の間に、共通に認識が広がっていく必要性を痛感します。ただ、現状の制度も複雑です。だから、多くの人にとって縁遠いものになってしまっています。もっと、「権利」ということにこだわって、共通のものにしていかなければいけないなあとつくづく思いました。
3つめには、連帯という問題です。「子どもの貧困」に現場で向き合ってとりくんでいるさまざまな人の姿には、同時に、感動に近い思いを持ちました。そこが、この社会の、一方でのすばらしさなのだとも思います。こうした運動が、「場」としての連帯、そして、「制度」としての連帯につながっていけば、言い換えれば、子どもの視点にたって、よりその連帯が近いものになれるような前進があればと願ってやみません。
付け加えて言うならば、議論も、社会的認識も大きくおくれているような問題もまだまだあります。ボクがよく考えなければいけないなあと思ったのは、性をめぐる問題です。貧困ビジネスとしての性産業がとりあげられていますが、性的虐待の問題や、子どもの性被害の問題など、そのことと地続きの問題として、もっといろいろ考えなければいけないと痛感します。同じように、ジェンダーの問題は、より実証的な議論が求められているように思えてなりません。
正直、この本は、完結しているわけでありません。新しい政権ができたとしても、それですべてが解決するわけではないし、圧倒的な問題はすぐには解決しないでしょうから。その意味で、「子どもの貧困」の取り組みは、まだスタートラインです。その宣言の書でもこの本はあるのでしょう。子どもと大人の共同で、社会と政治を変えていく、そのことをせまっていく指針として、この本が活用されることを願ってやまない、そんな思いでいっぱいになった一冊でした。
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