司馬遼太郎と歴史観―その「朝鮮観」と「明治栄光論」を問う―
中塚先生の新著を読んだ。これがまたたまらなくおもしろい。
俗っぽく言えば、日本の朝鮮支配対しては、「朝鮮は放っておけばロシアの植民地になってしまって、日本を守るのがむずかしくなる。だから日本が先手を打って朝鮮を封建制から解放してあげた方がいい…」という考え方が、かつて支配的で、しかも、それは、戦後も脈々と引き継がれることになった。アジア太平洋戦争は明治の伝統をゆがめたものとも。司馬遼太郎の朝鮮観、そして朝鮮支配への考え方についても、その延長線上にある。しかも、国民的作家のその考えは、戦後の国民の歴史認識に小さくない影響を与えることになる。
中塚さんは、日清戦争期の、王宮占領事件、東学農民革命への弾圧、そして王妃殺害事件をめぐって、日本がおこなったこととそのことが日本でどのように伝えられたかを最近の歴史研究の成果を紹介しながら克明に明らかにする。つづいて、日露戦争から韓国併合にいたる過程の問題も、同じようにどう歴史の偽造がすすんだのかを明らかにする。わかりやすくかかれているか、ものすごい労作であり、戦前の朝鮮・日本の関係を学ぶ上では最適の一冊になっていると思う。
中塚さんは、朝鮮での日本の行為が、朝鮮の人々の抵抗をつくりだし、また国際社会から日本が孤立する出発になったと指摘する。日中戦争、アジア太平洋戦争の問題を考えうえでも、この時代の日本と日本軍のことをもっと知る必要はある。そこから、連続と飛躍が見えてくるのだろうと思う。
しかし、日本は侵略や植民地支配でおこなったことを国民的な認識にするということはたいへんな事業だと思う。歴史が教育されず、戦争責任を語ることがきわめて政治的というような見方がされるもとで、国民的な合意の切り口をどうつくるのかというのは、ほんとうに難しい。でも、一方では、その歴史認識や国民的な合意は、歴史の事実のうえにおこなわなければいけないというのは決定的な点でもある。
まず、事実を共有することなのだけれど、そのためにはたぶん、歴史史料というものが、きちんと公開され、だれもが利用できるような使いやすさという状況になるのが第一の課題なのだろうとは思うけれども。それだけも、大きく変わるとは思うのだけれども。
« 若者の教育とキャリア形成に関する研究 | トップページ | 7月失業率、過去最悪の5.7% 有効求人倍率も最低 »
「平和」カテゴリの記事
- 「外国人優遇」はデマ 参院選で広がる排外主義に複数団体が反対声明(2025.07.08)
- 前衛8月号ができています。(2025.07.07)
- 歴史学者が憂える政治家の認識 歴史修正主義に甘い日本(2025.07.02)
- 「被害証言に高度の信用性」米兵による性的暴行の事実認定 那覇地裁が懲役7年判決「生命の危機が生じかねない」(2025.06.25)
- 沖縄戦を指揮した牛島司令官の辞世の句、日本軍中央が改ざん 沖縄での劣勢報告も 本土決戦へ戦意高揚狙う(2025.06.22)
「読書」カテゴリの記事
- 市議選開始! 「世取山著作集出版記念会」(2025.07.13)
- 前衛8月号ができています。(2025.07.07)
- みんなでつくろう子どものための学びを(2025.06.30)
- 社会の底が抜けたような状況に、論壇誌は(2025.06.10)
- 劣化する米国、吉見俊哉さんの見方 非対称な関係、見直す時 トランプ氏再選、背景に帝国主義(2025.06.02)
「政治」カテゴリの記事
- 日本に「排外主義」が広がった?否定した研究者が求める外国人政策(2025.07.18)
- 学習塾代が高騰、難関校狙う高所得層が押し上げ 中小淘汰で倒産最多(2025.07.17)
- 追いつめられる子どもたち 「あなたががんばれ」が生んだ緊張と不安(2025.07.15)
- 世界を操る「あの勢力」…ライトな支持層は知らぬ参政党の歴史観(2025.07.14)
- 市議選開始! 「世取山著作集出版記念会」(2025.07.13)
「歴史」カテゴリの記事
- 日本に「排外主義」が広がった?否定した研究者が求める外国人政策(2025.07.18)
- 「外国人優遇」はデマ 参院選で広がる排外主義に複数団体が反対声明(2025.07.08)
- 前衛8月号ができています。(2025.07.07)
- 歴史学者が憂える政治家の認識 歴史修正主義に甘い日本(2025.07.02)
- 「被害証言に高度の信用性」米兵による性的暴行の事実認定 那覇地裁が懲役7年判決「生命の危機が生じかねない」(2025.06.25)
コメント