「従属」から「自立」へ 日米安保を変える
前田哲男さんの新著を読み終えた。
さすが前田さんの本だけに、安保条約の変化の経過や、現状についての分析は、よく整理されていて、おもしろい。ここまで、日本は、アメリカに従属しているのかということが手に取るようにわかる。その端的な例が、「グアム協定」によって、外国(アメリカ)の領土に、外国軍人の住宅などを建ててやるため60億ドル(約6000億円)もの日本国民の血税を注ぎ込むことにあらわれているのだろう。
また、オバマ政権のもとでの、さまざまな議論も勉強になった。
そのうえで、この「従属」から「自立」へという議論は結構、やっかいでもある。
ただ、以前、15年ほど前、前田さんたちが「安全保障基本法」というものを提案したとき、ボクは、その議論に賛成できなかったけれど、いま、これだけ、国民的な規模で、対米追随というものの異常さ、その弊害が認識されているもとでの、こんどの提案は、とてもまじめな議論として、耳をしっかり傾けたいと思う。
が、それでもやっかいな問題はたくさんある。
結局、この対米従属というものからどう脱却していくのかということが、いちばん大切な問題なのだけれど、たとえば、日米安保条約と、他の軍事同盟との違い、条約そのものか基地貸与条約として、無限定で強い内容を持つという問題をどう考えるのかということについては、あまりふれられていない。また、安保条約は条約単独であるのではなく、その後、一連の法体系を形成しているわけだけれど、そういったものに、どう対処していくのかという問題も、やや安易さを感じてしまう。
そして、何よりも、 アメリカの側が、必ずしも、日本の「自立」を容易に、容認する方向を示していないもとで、それに向き合う、日本の政治・政権の立場だとか、方策が問われるわけだけれど、前田さんの提案は、はたしてどれだけ、実際の意味を持つのかということもある。
でも、ここに提案されていることには、同意できることが少なくない。安保条約の枠をこえた「密約」などの暴露や廃棄、アジアでの平和の共同の構築などは、その通りだと思う。たとえば、海賊の対処など、9条にもとづく、日本の役割をはたしていくことを積み重ねていくことなどは、その通りだと思う。
軍事同盟がその使命を終えるのは、廃棄という場合と、立ち枯れという場合が、たぶん存在する。日米安保が、後者のような方法で、その使命を終えていくことは可能なのだろうか。もし、かりに可能だとしたら、その条件とはどういうものなのか?
では、政権交代後の政権に、何を求めていくのか。ボクは、単純に、民主党が、安保強化だとか、憲法改悪に向かうとは、判断はしていない。もちろん、その危険性は大いにあるし、その兆候がないわけではないけれど。大事なのは、世論で、新政権にせまっていくのかということだろう。だからこそ、民主党が、この問題を選挙の争点にすることを避けているように見えるもとで、もっと、選挙のなかで、議論をおこなうこと。そして、この問題で、はっきりした態度を示している、政党を、今度の選挙で前進させること、そして、選挙後も、この点での世論が高まっていくことのが大事なのだと思う。
安保条約の本質への理解以上に、対米従属に疑問をもつ人は多い。それだけに、対米従属からの脱却という広い一致点での共同は、それはそれで重要である。そのなかで、安保とは何かの議論が求められるのだろうとは思う。ただ、この問題は、やや政治のレベルではプラグマティックに議論されてしまうのが、気になっている。もっと、ちがう議論の深め方があるのではないか、という漠然とした疑問もないわけではない。
安保改定50年を前に、結構、大きな宿題を与えてくれた本でもある。
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