虜囚の記憶
10数年前、『戦争と罪責』で、加害兵士の、罪とその人間性の回復について追跡した、野田正彰氏が、侵略の被害者の心の傷を、精神医学の立場から追いかけたのが本書である。
「過ぎ去ろうとしない記憶は、老いてさらに鮮明になっていく。今生きている日本人に、そして中国人に、中日戦争で何が起こったか、民衆はいかに苦しんだか、知ってもらうために記憶は生き続けている」(「第1章」より)
日中戦争時(1937~45年)、日本に強制連行された中国人男性、日本軍に性的暴力を受けた女性たち――虜囚にされた人びとは、その後の人生を抑圧と障害を背負い続けて生きて来ている。著者は中国・台湾を訪ね、老いた被害者から体験を丹念に聞き取り、記録としてまとめた。歴史の証人の言葉を伝え、戦争の罪責を訴えかける貴重なドキュメント。
「90年代末から2000年代初めにかけて、中国人強制連行と従軍慰安婦の裁判判決が続き、遠い過去の出来事とか、サンフランシスコ講和条約で解決済みとか、1972年の日中共同声明で戦争被害の請求権はなくなっているとかの理由によって、被害者原告の訴えを斥けていくのを見て、何かしなければならないと焦るようになった。戦争被害者は過去の犯罪について訴えている以上に、今なお苦しんでいるのである」(「あとがき」より)
本書は、元日本兵の体験の聞き取りと分析を行った『戦争と罪責』(岩波書店1998)と対をなす。今回は被害者である中国民衆の体験を語り伝える。
読んでいて、とてもつらい、かなり心のなかにまで痛みをともなう本である。本当に、ボクらは、侵略の加害についてどこまで、わかっていたのかを問いかけてくる。たしかに、実は、ボクらは何もわかっていなかったのかもしれない。強制連行で、どこかもわからない場所で、ひたすら奴隷的生活を強いられる苦しみ。性奴隷として、暴力のもので、恐怖と絶望の日々を長期にわたっておくるということがどういうこyとなのか? そして、そこでの体験が、その人たちの戦後にどのような精神的な苦悩や、実際の「傷」をつくりだしたのか。それに対して、いったい日本は何をしてきたのか?
著書のなかには、戦後の補償裁判もとりくみに対する批判もある。ボクは、対象となった花岡事件の裁判の詳しい経過を知らないので、簡単に判断を下すことはできないけれども、少なくとも、われわれのとりくみが、被害者の苦しみによりそって、どこまでとりくむことができていたのかという著者の問題提起は大事な視点であることは、まちがいはない。
かなりボロボロになるほど、苦しい本であるけれど、和解と、われわれの社会の「回復」のためにも、向きあわなければいけない問題の1つがたしかにここにあるのだろうと思う。
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