派遣村 何が問われているのか
ボクの生まれは大阪の通天閣の下だ。釜ケ崎と言われる地域に隣接したところだ。釜ケ崎を東にいくと、上町台地にぶつかる。その坂のうえにボクの家があった。地元の学区の半分が、坂の下の地域だったこともあり、実は、釜ケ崎の地理については、かなり詳しい。もともと、父の実家(戸籍上の祖父、ただし血縁があるかどうかは定かではない)が坂のすぐ下の地域・山王町(飛田とよばれる地域)で、その種の生業をしていたこともあり、とくに山王町については、遊び場でもあった。
釜ケ崎は、周知のように日本最大の寄せ場である。そこには、”浮浪者”とよばれていたホームレスの人も多数いて、冬になれば、凍死者がでたというニュースもよく耳にした。子どものころには、ちゃんと勉強しないと浮浪者になるよなどと脅されたものだった。
この釜ケ崎の風景は、ボクのなかに刻まれた一つの風景である。
でも、子どもの頃から、この地の学校にはいかず、そして、18歳で実家を離れて、その風景はだんだんと思いだすことはなくなった。
なんで、こんなことを書きはじめたのかというと、この『派遣村 何が問われているのか』という本のなかで、生田さんが釜ケ崎のことを書いていたからだ。一年ほど前に『ルポ 最底辺』を読んだとき、まざまざとその風景がよみがえってきた。そして、日本全体が寄せ場化して、いま、あの風景がいたるところにあらわれている。
本の内容は、 I部で、「派遣村は何を問いかけているのか」(湯浅 誠)と「反貧困運動の前進――これからの課題は何か」(宇都宮健児)――これらは、『世界』の再録なので、ここでは紹介しない。
II部では「座談会 派遣村はいかにして実現されたのか――実行委員会が語る」(棗 一郎,井上 久,遠藤一郎,関根秀一郎)と「座談会 セーフティネットとしての派遣村――生活相談の現場から」(湯浅 誠,猪股 正,後閑一博,信木美穂)で、この2つは、なかなかリアルで面白かった。 それぞれのナショナルセンターの枠を超え、労働組合が、これだけ大規模に、はじめてといっていいほどの、貧困に直面した人たちに向き合った、その苦労や、ときには本音も語られていた。後者の座談会は、相談にのった弁護士などのもの。どんな問題に直面し、何が課題であったのかが語られる。ここには、新しい問題が、たくさん語られる。派遣村にきた人たちが、どんな傷や困難をかかえてたどり着き、何が必要であったのか。
III部は、生田武志氏、楜沢健氏、井手英策氏、石田雄氏の論考。いずれも、なかなか興味深かった。野宿者支援の現場から、そしてプロレタリア文学と現代文学、経済学とりわけ税制と社会保障の分野から、政治学の立場から。
人間の尊厳という視点から考えたとき、どのように向き合うことが大事であるのか、そして、どのような社会が求められているのか。
この運動が、どのように社会を動かしていくのか。小さな動きが、波になり、そして大きな力としておこりつつあるのだろう、と。
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