東京裁判(その2)
戸谷さんの『東京裁判』を今日、読み終えました。いやあ、面白かったです。とても刺激に満ちて。
たしかに、これまでの東京裁判を論じた本というのは、裁判そのものを論じたものって少ないんですよね。粟屋先生のものも『…への道』だし、多くは、検察の調書だとかを元にしている。戸谷さんの本は、裁判での速記録を読み込んでいて、そこが面白い(実際に、日本の東京裁判の研究者でも、速記録を丁寧に読んでいる人は少ないと、ある著名な研究者の方も告白していました)。
日本がどのような、戦争犯罪を、アジアの各地でおこなったのかということがたくさん、この裁判では裁かれているし、そういう意味では、「勝者の裁き」だけでない、「被害者の視線」がこの裁判にあったということは事実なのである。ここまで、東京裁判で扱っていたのかとおどろくようなことが、日本軍「慰安婦」の問題だけにとどまらず、明らかにされている。
もう1つの特徴が、国際法の発展なかで、この裁判をいちづけていること。とくにこの裁判が、その後の国際法の発展にどのように寄与したかも明らかにされている。
その点で、秀逸なのが、パル判事についてふれた章。聞くところによると、戸谷さんはもともと、パル判事の意見書から、この東京裁判の研究をはじめたという。昨年、中島岳さんの本を、このブログでもかなり肯定的に紹介したけれど、彼の研究を評価しながらも、その弱点を明らかにしている。中島さんの本は、パルの主張から見て、戦後の東京裁判否定派の、意見書の評価はまちがっているというものだったけれど、それはかなり強引な論法で、戦後の、パルの行動は明らかに、東京裁判否定派と行動と主張をとにもしているわけで、その論理の萌芽が、すでに意見書のなかにあるというわけである。その1つのポイントは、パル自身の、国際法の理解が、当時の国際法の発展においついていなかったというもの。
このパルという人物は、どうもまだまだよくわからないところがあるようでもある。
最後に、彼女が、東京裁判やニュルンベルグ裁判を契機に、発展した国際刑事裁判について、今後の適用の課題について言及している。たしかに、なぜ、イラクのクウェート侵攻では、その戦争責任の指導者が裁かれなかったのか…? まだまだ国際法というもののもつ課題についても、前向きに提起している。それだけに、東京裁判からくみ尽くすべきことが多いと言うことか。
1つの章をとっている天皇免責の問題は、これもまたいろいろな議論はなりたつのだろう。ただ、東京裁判が、アメリカのイニシアチブは否定できないものの、国際的な規模でおこなわれたという点に注目することは、それはそれで大事なのかもしれないと思ったし、このアメリカと国際的な規模というものの関係を、戦前の歴史的な流れから考察することも、テーマとしてはあるのかなあなどともふとおもったりした次第。
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