子ども理解を深め、学びの物語を紡ぐ
北海道のある先生から、上ノ国小学校の校長として、「学びの交差点」という「地域をふるさとに高める」教育実践を行ってきた笹原克哉先生の著し 田中孝彦さんが編集・解説している『子ども理解を深め、学びの物語を紡ぐ-地域に生きる教師として-』というブックレットをおくってもらって、読んだ。素朴にものすごく感動した一冊だった。
檜山の学びの物語を紡ぐという実践は、教研などでN先生の実践を何度か聞いていた。そして、田中先生の「子どもの声を聞く」という調査も何度か話を聞いていた。その根底に何があるのかということをあらためて教えてもらったという感じがする。
学びの物語を紡ぐというのは、どういうことか。いま子どもたちは、自分への自信のなさと他者とのつながりの脆さのなかに生きている。そんな子どもたちに、バーチャルではない、実感のともなった学びをつくることは、学びの空洞化がすすんでいるもとで、いまの教育が「学力」ということに関わって、ほんとうに大事な課題になっている。北海道の豊かな自然と生活の営みをバックに、その課題にとりくんだの実践記録でもある。
こうした実践を何が支えているのか。そこに子ども(人間)に対する無条件の信頼と尊敬がある。子どもの声を徹底してていねいに聞きとり、「子ども理解のカンファレンス」をすすめることで、子どもへの理解を徹底して強めている。ある児童虐待の例が紹介されているが、その実践には、庄井先生が言うように、「困難の多い現代社会のなかで、子どもが小さな背中に抱え込まざるを得ない苦悩への痛み。そこから恢復・成長しようとする子どもの根源的な生命力への驚きと喜び。みずからの生活に不安や葛藤をいだきながらも、地域の子どもの成長と発達を、祈るような思いで支援しつづける大人たちとの出逢いと、学び合い。そこから仄見える小さな希望の紡ぎ合い。笹原克哉先生が、教師として暮らし、そして生きてきたこの上ノ国の地域には、そのような人間発達援助の絆づくりの物語が埋め込まれているように思います」という姿がある。檜山の実践は、日本の教育実践の集積のうえになりたつが、現在の貧困という課題に、教育がはたすべき役割の原型というものもそこにあるようにも思う。
間宮先生が、「インタビューの聞き手である田中孝彦先生が常々示しておられる『子どもの声を聴く』ことができる教師であるために、著者(笹原)はきびしい研鑽を積まれてきたことが伝わってきます」と書いているけれど、校長まで務めた著者の教師としての姿の魅力に満ちあふれるとともに、学校には、教育には、子育てには何が大事なのかを気づかせてくれる一冊になっている。どんな学校が求められているのか。「教職員が支え合う関係にあるのか、それとも責め合う関係にあるのかということは決定的です。私は、管理職の基本姿勢として、教職員と共に大きな共同を築くこと、何よりも、教職員に対する関心と理解、敬意がなければ、学校は人間を育てる器にはなれないと考えてきました」という言葉も秀逸である。根本においては、教育とは「自分を掘り下げていくことであり人間理解を深めることである」。心に刻みたい言葉である。
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