光州5・18
いまから、わずか28年前の今日はじまった事件がこの映画のテーマ。原題は「華麗なる休暇」、これが、軍事政権のもとでの光州制圧軍に下された作戦の名前だそうだ。
映画、そのものにはいろいろな評価がある。エンターテイメントに徹しすぎ等々の批判もある。ボクは、見ていて、韓国の若い(まだ30代)の監督が、みごとに歴史として記憶すべき対象の物語と化したところにも驚きがある。ある意味、このまだ生々しい感覚の残るような事件を、少し突き放して「記憶」として対象化してしまう。そのぐらい韓国での、この事件を客観化できるだけに認識の広がりがあるということなのだろうか。
映画そのものは、28年前の今日にはじまう10日間の事件を人間ドラマとして追うだけで、その時代的な背景はほとんど描かれない。また、登場する人物の人間的な背景なども描かれない。さらに市民軍内部に存在したであろう葛藤や緊張なども捨象されている。いわば、ドラマとしてものすごく単純化されているとも言える。が、この10日間に起こった事件を再現することで、その事件そのものの重みが圧倒する。そんな仕掛けになっている。ボクは、その仕掛けそのものが見事に成功した映画だと思う。
1980年5月18日、韓国・光州市。この町で25000余名の戒厳軍が民主化を要求する学生、市民らと衝突した“光州事件”…タクシー運転手の青年ミヌは早くに両親を失い、たった一人の弟ジヌと暮らしていた。父親代わりでもあるミヌは、弟に格別の愛情を寄せていた。そして、ミヌが想いを寄せる看護師のシネ。彼女は母親を亡くし、父親フンスとの二人暮らしだった。彼らの平和な日常は、その日を境に突如として襲った嵐のような戦禍にまみえていく。ミヌは、ただその現実が夢であることを願った。軍の銃弾に倒れた弟のジヌ。かけがえのない愛と命が次々と犠牲になっていく。ミヌは、ただ愛するものを守りたい一心で戦いを挑んでいくのだが…。
ラストシーンについてもいろいろな議論がある。それはいずれもあたっているのだと思う。ただ1人生き残ったシネの表情が悲しげで痛々しい。その表情を受けとめるような意識が、たぶん韓国には強く存在するのだろう。
では日本のボクらは、どう受けとめればいいのか。自国の戦後史にも思いをはせながら、かの国の苦闘を思った。
つれ合いとはじめて「ふうふ50」を活用しての映画だった。
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» 封印が解かれた光州事件の映画 『光州5・18』 [千恵子@行政書士]
封印が解かれた光州事件の映画 『光州5・18』韓国は一番近い「国」。すぐ隣りなのに報道も少なく知らされざる地。その半島最南端、全羅南道の道庁所在地で1980年に起きた光州事件は、日本では話題にもなっていない。韓国でも軍事政権の情報操作で、長らく封印されていた事件。
映画『光州5・18』を作ったキム・ジフン監督は、事件当時は9歳。戒厳令下の報道は民衆を「暴徒」扱いしていた。真実を知らされなかったとはいえ、知らなかった自分を恥じた監督は、資料を調べ、当時の関係者からの丹念な聞き取りで完成させた作品だ。... [続きを読む]
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