聖火リレーとチベットと
今日は、一日中、どこに言っても、長野での聖火リレーの様子がテレビで報じられ、話題を独占していましたね。見ていて、違和感だらけけだし、走っている人たちも、とくに選手たちは可哀想でした。
違和感の正体ってなんでしょうね。第一、選手たちの思いはまったく横に置かれてしまっているということ。ボクは政治とスポーツが無関係だなんて思わないし、アスリートが、スポーツという文化にかかわる人間として、政治的な主張をおこなうことなどは、大いに歓迎するべきことでしょう。そんなことがまったく無視されている。と、同時に、テレビに出てくる人たちも、どれだけ当事者に近い目線で主張しているのかもよくわからない。
チベットにかつて、大きな人権抑圧があったということは否定のできない事実だと思う。同時に、現在、大きな騒乱があって、中国政府が抑圧的な対応をしているということも事実だろうとは思う。でも、その騒乱のプロセス・内容――暴力がどのように介在するようになっているのかなどは、もう一つ定かではないし、メディアも、そういう事実認定には、まったく積極的ではない。一口に、人権抑圧だとか、政治的抑圧というけれど、国内法・国際法にもとづいて、何が問題になっているのか、つめた議論はさっぱりわからない。
もともと、あまりにも、政治的主張を先行する団体の思惑が錯綜している。すでに、一部のメディアでは報道されているが、チベット青年会議は「ダライ・ラマの亡命政府とは関係のない組織で約3万人が参加し、世界40カ国以上に出先があり、チベットの完全独立を要求して近年は活動を活発化」「『高度な自治』要求や非暴力主義を掲げるダライ・ラマとは意見が異なる」という。しかも、チベット青年会議だけでは、どうも世界的に繰り広げられている抗議行動は無理なようで、当然、アメリカの本部をおくような組織も介在していると言われている。しかし、「チベットの独立」だとか、民族自決権をどう考えるかは、まえにも書いたように単純ではない問題がたくさんあると思うけれど、中国政府とダライ・ラマが、公式の発言としては、おこなっている、「高度な自治」ということをベースに対話がはじまるというのは、何よりも現実的ではないのだろうか。
もちろん、ボクは、この問題の根底には、人権という普遍的な価値を置くべきだと思う。しかし、そのときに、人権を口実にした、大国の思惑やその政治的主張によって、政治的介入がおこなわれることはさけなければならないと思う。人権という問題にかかわる世界のルールがいまだに、発展過程にある以上、政治的思惑によって生じる外からのダブル・スタンダードということは、どうしても避けなければならない問題だと思うのだ。
だからこそ、当事者の責任は重い。歴史的経過から見ても、さまざまな問題=歴史的な課題と言っていいような問題があるのは事実なのだから、中国は、まず事実認定にかかわる説明をすべきだし、解決の努力の内容をもっと説明するべきだ。中国がチベット問題――それは人権の1つの根底にある経済格差の問題もふくめ、その解決のためにどんな政策をおしすすめているのかということについても、もっと説明するべきだと思う。その意味で、主観的な中国脅威論に立った、議論や報道も謹んでほしいとも思う。
ことの進行は、中国は、ダライ・ラマとの対話を模索し、「国境なき記者団」のメナール事務局長も長野でのリレーが「他の民主主義国家よりもはるかに成功を収めた」と述べ、「ここでは良好な雰囲気の中、チベットの旗を振るチベット人と赤い旗を持った中国人が隣り合っているのを見ることができた」と強調したという。全体として、こうした動きが、冷静な対話となっていくことを望むし、歓迎するものだけれど、はたしてまわりの政治的思惑はどう影響するのか。
ボクは、中国政府の責任を免罪するつもりはまったくないけれども、少なくとも、ボクらは、まず当事者が何を発言し、何を行っているのかということに、もっと冷静な注目をしたいとつくずく思うのだけれど、どうだろうか。
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