カクテル・パーティー
沖縄での米兵の犯罪にかかわって、ある人から、この「カクテル・パーティー」という小説を紹介してもらった。1967年に芥川賞を受賞していた大城立裕の小説である。残念ながら、単行本は、もう絶版になっていて手に入らなかったし、職場の資料室でも見つからなかった。いろいろ探して、地元の図書館で、芥川賞全集を見つけて借りてきて、やっと読むことができた。
主人公は、日頃からアメリカ人のインテリや中国人とも交際のある沖縄の一知識人。当時は、米琉親善、琉米親善といわれる事業がおこなわれていた、いまでいう「よき隣人」政策と言えるが、そのなかでパーティーに招待される。その同じ時刻、娘が若いアメリカ人にレイプされる。
事件を告訴するか否か迷う。そのなかで、アメリカと沖縄という関係だけではなく、沖縄・日本と中国、そして沖縄と日本の本土という関係で、戦場における非人道的行為・犯罪というものが問い直され、沖縄での米兵の犯罪を問う意味を問いかける…。仮面をかぶった親善などありえないのだと。
心に、チクチクと刺さる小説だ。自分は、こうした事件に、そして、歴史のさまざまな事件にどう向き合ってきたのだろうかと。怒りと、強い思いを問いかけてくる。いずれにしろ、米軍の占領下の絶対的権力のもとでの勇気ある作品である。
第一人称から、第二人称へ、小説の方法も議論されている。
貴重な文学的成果である。なぜ、こうした小説が、十分に読み伝えられなく、埋もれていくのだろうか。日本の出版事情の深刻さも、いまから見れば問いかけている。いまでこそ、ぜひ、多くの人に読み継がれてほしい小説だとも思う。
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