我、国に裏切られようとも 証言村上正邦
KSD事件で被告人となった村上正邦元自民党参院会長の語りを、元共同通信の魚住昭さんが書き下ろしたのが、本書。村上氏といえば、今の「靖国」派が形成される過程で、大きな力を発揮した右派議員の大物である。この本をとおして、生長の家、その政治団体であった生政連、学生組織の生学連などが、いかに現在の「日本会議」などを中心とした「靖国」派の礎となり、影響力をもっているのかがよくわかるようになっている。
村上氏自身は、九州の貧しい炭鉱労働者の家庭に育つ。そういう意味では、安倍さんなどとは違う、たたき上げ的な存在でもある。日本の右翼思想が、本来、どのような基盤のもとにその思想的な根を広げてきたのかなどについても、生長の家と村上氏の出会いやそのなかでの出世などをとおして、あらためて考えさせられる。それは、右翼の中にも形成されている、美学――理というには合理的ではないが、情というほど感情的なものでもない、一つの思想というものが読みとれる。
それだけに、「靖国」派がかかえる本質的な矛盾というもの読みとることができる。その最大のものはアメリカとの関係の矛盾だが、それは本書からは読み取ることはできない。ただ、国民との間に抱える矛盾は、十分に読みとることはできる。村上氏の言葉から国民を語ることは少ない。そこからは政治を語る基盤の狭さが強く感じられるからだ。そして、けっきょく保守層内部、「靖国」派内部にも深刻な矛盾を見ることもできる。村上氏が、小泉元首相や、かつての同志ともいえる人物の息子である中川昭一や、安倍晋三への視線は冷たい。
ただ、魚住さんの手によるものと言えども、結局は村上氏の美化に繋がらないのかという点では、なかなか難しい。KSD事件の弁解で綴られている本書。はたして真相はどうなのか。「政治とカネ」をめぐっては、当の政治家の意識と、われわれの常識=事実認識とはかなりかけ離れている。たぶん、その点では、本当のことは最後まで語られないのかもしれない。
安倍政権の崩壊とともに、いったんは頓挫した「靖国」派の策謀。国民からも、世界からも乖離した主張であるにもかかわらず、現政権のなかにも、いまだに深く潜行しているようにも思える。福田首相の盟友の衛藤議員も、生長の家の出身である。そのことはよく見ておく必要はありそうだ。
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