格差社会ニッポンで働くということ
最近、あまり本の感想を書いていなかったので。最近読んでおもしろかったのが、この本。『格差社会ニッポンで働くということ』、サブタイトルに「雇用と労働のゆくえをみつめて 」とある。甲南大学を退職した熊沢先生が、みずからの研究の集大成として、市民向けに10回にわたって講演したもの。
一九九〇年代後半から加速度的に顕在化した雇い方・働かせ方に関する企業労務の展開からもたらされた、雇用形態の多様化、ワーキングプアの急増、働きすぎの人たちと働けない人たちの共存、労働条件が悪くても声をあげられないこと…つまり、“労働問題”こそが、日本をまぎれもなく格差社会とさせているのだ。
格差社会論はこれまでも数多いが、労使関係の視点から「労働そのもの」をみつめた議論はいまだなかった。
本書は、それをみつめつづけてきた著者だからこそ可能となった新しい格差社会論であると同時に、労働研究の到達点から語られる“日本の労働”入門でもある。
政治的な立場も、労働組合に対するスタンスも、政策的な主張も、少しばかり氏とは違うのだろうと思う。でも、この人の書くものはいつも頭がさがる。視点は、いつも現実をできるだけ直視しようと探求する。
私は、まったく労働組合の門外漢であり、労働運動をめぐる論争など、よくわからないところが多い。しかし、この本が、まず〈働かせ方〉という点からはいり、そのうえで、雇い方の変遷を歴史的に押さえようとしている点は、とくに共感する。歴史的に見ることで、なぜ、成果主義がこんなにも受容?されてしまったのか。なぜ、非正規労働が、労働者のたいした反抗もなく、これだけ広がったかもよく分かる。ペイ・エクイティをめぐって、どのような受け止め方をされてきたのかも、なるほどと思った。
では、抵抗の可能性はどこにあるのか。労働をまるごと見つける氏ならではの指摘も共感できる。若者たちの新しい連帯の模索である。
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