「失われた『連帯』を求めて」と「赤木問題」についての雑感
『論座』の11月号に、浅尾大輔くんが「失われた『連帯』を求めて」という一文を寄せている。広がる若者の非正規労働の実態とたたかいを論じている。
「もはや右だとか左だとか、悠長なことを言っていられる状況ではない。私たちの生きているこの時代は土砂降りの雨だ。髪は濡れ、足場はぬかるんで一歩も前に進むことはできない。そのときに私たちがしなければならないことは天下国家を論じるkとではなく、労働条件の最低ラインを会社に守らせるという”ブルーシート”の端をともにつかんで一面に敷きつめることではないのか」
なかなか過激で刺激的な言葉だ。
こうした論には、いろんな反論も予想される。たしかに、現存の労働法を守らせるだけでも、若者の働かされ方の多くの問題は、かなり改善する。だから、まず、そのたたかいが重要なことには意義はないが、しかし、現在の非正規雇用の拡大が、労働法制の規制緩和や、正規労働者もふくめた雇用ダンピングという状況のもとでつくりだされている以上、その大本を変えなければ解決にならないのではないかと。そして、そういった社会に認識が広がらないと、彼の言う、若者の間に広がる「誇りの破壊」や「未来の破壊」は、回復しないのではないのかと。
たぶん、そんなことは浅尾くんは一〇〇も承知で書いているのだと思う。彼が問いたいのは、こうした若者の「絶望」に誰が寄り添い、裏切らずにたたかいきるのかということにあるのだと思う。今、求められているのは、この「絶望」に共感し、ともにその打開の筋道を考えることだと。
実は、共通するようなテーマについて、この雑誌は、今年に入って一貫して取り上げている。話題になった「赤木問題」などは、その典型例でもある。フリーターでもある赤木氏は、今年一月号の「『丸山真男』をひっぱたきたい」という論文で、「希望は、戦争。」と書き、物議を呼び起こした。ロストゼネレーションと呼ばれる三一歳の氏の世代にとって、働きたくとも、生きていけるような仕事にはつけず、人間の尊厳すら最初から奪われている。戦争になれば、社会が流動化し、国民が平等に苦しむと。
これに対し、四月号で、佐高信、奥原紀晴、若松孝二、福島みずほ、森達也、鎌田慧、斎藤貴男という論客が、応答を書いている。そして、六月号で、赤木氏が再反論を掲載している。
実は、この応答も、みごとなほどすれ違いに終わっているというのが、私の感想でもある。七氏の応答は、ここには異論がないわけではないが、かならずしも間違ったことを書いているわけではない。たとえば「戦争」というものに対して、語りかける言葉は、それはそれで考えさせられるものでもある。
ではなにが、それ違っているのか。それは、この社会であれ、政治であれ、いまある若者の「困難」や、痛め続けられてきた「絶望」に、どう向き合おうとしているのかという問いである。「たたかえ」と呼びかけるのならば、上からものを言うのではなく、まず、若者の「絶望」に分け入って、そこに共感し、連帯し、解決策を提示すべきだという問いではないのだろうか。
実は、これはそんなに簡単なことではない。では、浅尾くんのいうところでとどまっていていいのか。そこにある社会認識は、やはり限界があるし、そこに押しとどめようとする力が働いていることも、まだ事実でもあるからだ。その力に対抗する力をもたなければ、やはり、生存の破壊からも、誇りの破壊からも、未来の破壊からも回復はない。
そのとき、考えるべきことは2つある。1つは、どう押しとどめようとする構造に向き合うような道筋をつくるのかという問題。もう1つは、その構造が、最初から若者を排除するという仕組みをもっているのではないかという点。排除からの回復という2重の課題を抱えているのではないかという問題だ。
この問題は、案外新しく考えなければならない問題なのかもしれない。たとえば浅尾くんはもともと、かなりの文化資産をもった人だし、赤木氏自身、そのプロフィールはよく知らないが、書いているものから見れば、文化資産の持ち主だと思える。そうではない、大きな困難や抑圧にさらされた若者たちの視線に立ち、若者たち自身が社会から排除されずに、社会に参画していくような姿というのが大事なのではないかというのが、第2の点の問題意識。
とりあえず、今日は、ここまでで、今後の課題としていきたい。
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