戦争と罪責
日本ではなぜ戦争の加害が語られないのか? 考えてみれば、中国における戦争に、莫大な日本人が参加している。激戦区だった山西省をはじめ、相当数の日本の兵士が日中戦争を経験しているのだ。この地で、残虐な行為がくり広げられたことは、日本側の兵士の記録や証言、中国の側の記録でも、ほぼ論争の余地ないほど明らかであるはずだ。
しかし、なぜ、この戦争の”記憶”というものが、日本で継承されないのか? ある意味では、不思議なテーマでもある。そのことを理解したいと思い。この間、日中戦争にかかわる文献を読みあさっている。10年ほどまえ『世界』で連載されていて、少し読んでいた、野田さんのこの本も、もう一度、読んでおく必要があると思って、読んでみた。
彼が、精神医学の立場から、罪の意識のされた方について、紐解いていく。もちろん、この課題は、戦後の国際政治の側面など多角的な視点が必要なことはいうまでもない。しかし、兵士たち、そして戦後の日本人の精神史の課題としての氏の指摘は十分な説得性をもって問題の本質をえぐる。氏の日本の民主主義のあり方=私流に言い換えれば日本の戦後社会の「人間の尊厳」や「人権」というものに対する捉え方の欠陥というものをあぶり出していることは否定のしようがない。
加害と向き合った、兵士たちの生き様は、示唆に富む。私たちのあるべき方向をも指し示す。それは、戦争責任を継承すべき、われわれ戦後世代に求められる課題でもある。加害の責任に向き合うためには何が必要であるのか。そのことをしっかり受けとめて、この問題に向き合う必要性を根底から問いかける。そんな貴重な一冊でもある。
まだまだ、たくさん知らなければ、感じなければならないことは多い。
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