少年裁判官ノオト
ここのところ読んだ本のなかで、いちばん面白かったし、勉強になった。刑事、家事の裁判を長く続けていた筆者は、定年までの8年弱、少年裁判にのめり込む。そのなかでは、あの少年Aの事件もふくまれる。「少年Aとの7年5カ月」では、審判決定にいたる、とくに精神鑑定で、少年の心を探る過程や、審判から少年院での更生へ、そのなかでの、少年の変化はおどろきでもある。このとりくみ自身は、日本の更生教育の最高水準のものの結果だと思えるが、その水準は、きわめて高いと驚かざるをえない。なぜ、こうした更生のとりくみがバッシングされ、少年法の厳罰化がすすむのか。それは、実態をあまりにもふまえていないというほかない。
この本のなかでは、著者がとりくんできた修復的とりくみなど、さまざまな少年裁判が、その本来の機能を維持、発展させるためのとりくみも紹介されている。読めば読むほど、「厳罰化」があまりにも、皮相なものであることは痛感させられる。同時に、被害者の感情なども厳罰化の理由とされるが、現在の刑事裁判による措置の範囲内では、充分の更生教育なども保障されないこともふくめ、かならずしも、この道が被害者にとって好ましいとも言えないことがよく分かる。
少年の更生の道は、内的な葛藤を促し、それを克服していくようなとりくみの支援にこそある。こうしたとりくみも、現在の「教育再生」の名による道徳の強制などが、まったく子どもの成長につながらないことを示しているとも言える。もともと、子どもたちが、暴力性のなどの困難をかかえる最大の原因は、社会的な「格差」や「競争」が背景とされ、排除をすすめるような社会的環境にある。そうした困難を、道徳の押しつけで解決しようというのは、百害あって一利なしだ。大人自身が、まずこの社会を見つめること、そして子どもたちの成長・発達を促すような、自由で豊かな教育環境こそ必要というほかない。まあ、競争社会のなかで、昨日もふれたように、私自身もふくめ、あまりにも内的な葛藤を回避してきた大人も多いわけだから、大人が自身を見つめること言うことも、子どもの問題を解決する大きな課題ではないのだろうか。
いじめや少年犯罪の問題を考えるとき、このような本が広く読まれることを、強く望むものである。
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