こんな判決でいいのか
今日、重要な判決が最高裁でありました。中国人強制連行と、中国人「慰安婦」の裁判です。前者については、最高裁からの弁護団への質問状などの内容から、こういう判決が予想されていたとは言え、何ともひどい判決内容でした。ただ、強制連行、拉致・監禁・乱暴の事実認定は否定していません。そのことのもつ意味を私たちは深く受けとめるということをまず第一義的に考えなければなりません。
個人請求権放棄と判断 中国人原告の敗訴確定(共同通信)日中戦争中に強制連行され、西松建設(東京)が施工していた広島県の水力発電所建設工事で過酷な労働を強いられたとして、中国人元労働者2人と死亡した3人の遺族が同社に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷は27日、原告勝訴の2審広島高裁判決を破棄、請求を棄却した。原告敗訴が確定した。
中川了滋裁判長は「日中共同声明(1972年)によって中国人個人の賠償請求権は放棄され、裁判上、請求に理由はない」と判断した。請求権自体が否定されることで、午後に上告審判決の中国人元慰安婦賠償訴訟も含め、一連の戦後補償裁判は事実上終結した。…
判決は、強制連行・労働と安全配慮義務違反などの認定は否定したわけではありません。「自発的救済」の必要性は、判決文でも触れているようです。ただ、個人請求権を否定している。
中国人元慰安婦も敗訴確定 「個人請求放棄」と最高裁(共同通信)中国人元従軍慰安婦とその遺族が国に損害賠償などを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷は27日、2審東京高裁判決の請求棄却の結論を支持、原告の上告を棄却した。原告敗訴が確定した。
才口千晴裁判長は、同日午前に中国人元労働者の敗訴が確定した西松建設強制連行・労働訴訟の判決と同様「1972年の日中共同声明で中国人個人の賠償請求権は放棄され、裁判では行使できない」と判断した。…
判決でも、原告の郭喜翠さん(80)ら2人が1942年、旧日本軍の兵士に拉致され、軍施設などに監禁された上、1カ月から数カ月間、連日乱暴されたという下級審の事実認定の適法性を認めています(この点自身が、現在の「慰安婦問題」の関係で重要だということは言うまでもありません)。しかし西松訴訟判決のように「自発的救済」を促すという言葉はありません。
判決について、中国政府が公式に批判するということはないと思います。人民日報の電子版では、いまのところ、朝日の報道を掲載するたちでしかのせていません。しかし、日中の和解にとって、大きな障害になることは否定できません。そもそも、中国政府は、日中共同声明で、個人請求権が放棄されたという立場をとってはいません。それだけに、日中共同声明を根拠にするのにはするのは、無理があると思えます。
世界でも、ドイツとポーランドのあいだで、ポーランドが東ドイツに対する請求権を放棄していたことから、同じような問題に直面する歴史がありました。長い時間をかけて、個人の被害への補償にたどりついたのが、戦後ドイツの歴史だということができます。
政府が、個人請求権を認めていない立場をとっている以上、司法には、独自の役割がはるはずです。大きな責任は、政治が負うべきことはいうまでもありませんが、司法が国際社会に開かれたかたちで、国際法の流れに即して、法解釈をしているのかどうかも、今回の最高裁の判断から、垣間見える問題だとも思いますが。
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