多元化する「能力」と日本社会
本田由紀さんの『多元化する「能力」と日本社会』という本が、大佛次郎論壇賞を受賞したことが、今日の新聞に載っていた。なかなか歯切れのいい議論をする人で、この人の本は読んでいて、おもしろい。ちょっと、斬りすぎという感じはしないでもないほどの歯切れ。本の帯には、「人間力っていうな」というコピーがあるように、学力にかわって、「ポスト近代」と彼女はよぶが、現在のグローバル化ともとでも新自由主義の展開のなかで、若者にたいして求めている「人間力」なるものに懸念を表明し、批判するのが本書の内容。
バブル崩壊から15年、ある時期を境に、あらためて「メリトクラシー(業績主義)」という言葉を耳にする機会が増えたように思います。そして現在、それは過剰なまでの社会的要請を受け、「ハイパー・メリトクラシー」とでも呼びうる社会を現出させようとしています。
今までは、頑張って勉強をすれば、よい学校に入り、よい企業に入るという、ある種の成功パターンを踏むことが出来ましたが、そんな時代はとうに過ぎ去った、と著者は指摘します。
次々と現れる「落とし穴」を回避するためには「学力」だけでなく、新しい「能力」が求められています。「頑張る」とは? 「社会的地位」とは? そもそも「能力」とは一体なんなのでしょうか。
気鋭の社会学者が描き出す、恐るべき日本のターニングポイント。これから子供を作る人も、いま子供を育てている人も、是非手にして欲しい、考えて欲しい1冊です。(出版社の紹介)
おどろいたのが、新聞にあった、評者のコメント。どうやら評者たちは、この本の主張より、現在の社会がハイパー・メリトクラシーをもとめ、そのために母親に過大な責任がかかっているという分析の内容の興味があるようだ(少なくとも評者からはそのことへの批判的な視線はない)。
私は、分析の立場というか、視点というか、若者への共感こそ、彼女の真骨頂だと思うのですが、いかがでしょうか。
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