聞き書 南原繁回顧録
戦後、最初の東大総長として、教育刷新委員会の副委員長として有名な南原繁。教育基本法の制定過程などを語る際にもかならず出てくる人です。この人の思想を直接、知ってみたいと思い、この分厚い本を、9月に半ばくらいに帰宅の際の電車のなかで、黙々と読みました。最近、この言葉がこのブログでは多いですが、これもものすごく面白かったです。この人、ものすごくナショナリストで、天皇制論者、しかし、日本の戦後の変革は、日本人の内発的な力によらなければならないと考えます。だから、戦前との断絶を日本人の手でつくらなければならないと。その基礎には、政府に従属するようなかつての日本人のありようを変えていかなければならないと。教育基本法に伝統を書き込むのに反対し、実は、アメリカにあまりにも従属的だと、憲法9条にも反対している(貴族院で実際に)。もちろん、その後の人生は護憲の立場にあるわけだが。
先日、大江健三郎さんが、「朝日」の随想で、この南原の戦後最初の紀元節の講演を紹介していたけど、『文化と国家』という本に収められている、戦後期の南原の演説の数々は、多くの国民を励まし、新しい日本をつくる礎になったということを感じさせるもの。
戦前、南原は、内務官僚から東大教授に転ずる。ときの政治に批判的という感じではない。原内閣時代に、労働組合法を起案し、実現しなかったことを契機に、大学に転じたわけだけど、氏が戦後の活躍の土台をつくったのは、やはり、戦中の大学のなかで、つねに大学の自治の危機に直面し、そのことに真正面から葛藤するなかでだという感想をもった。
少なくとも、現在の課題にも、少なくない回答の視点を提示してくれている。こうした先人たちの思想的葛藤には、結構、学ぶことは多い。
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