フィンランドに学ぶ教育と学力
フィンランドに学ぶ教育と学力というシンポジウムに行って来ました。会場につくなり、入り口が行列になっていて、ものすごい人です。明治大学の300人ぐらいの教室ですが、あっという間に満杯です。一昨年末に発表されたOECDのPISAという調査で、「学力世界一」として、政府も、メディアも、研究者も注目のフィンランド。関心の高さは、深い思慮もなくあまりにもクルクルかわる日本の教育のありように対しての閉塞感の反映なのかもしれません。
シンポジウムでは、まず最初に、中嶋博早稲田大学名誉教授があいさつ。教育基本法改悪や教育の分野でも格差が拡大する日本のいまの政策動向への強い憤りをふくめたお話は、この老研究者の熱い思いが伝わってきました。
つづいて、「読売」の西島記者のフィンランド取材の経験、少人数の学級、読書量、考えさせる授業あたりがキーワードでしょうか。渡邊あやさんという若い研究者の方が、フィンランドの教育の現状を、データも使いながら紹介。「小さな格差」ということと「教師の質の高さ」というのが印象的でした。島根県立大の高橋睦子さんが、フィンランドの福祉国家の実相についての報告。教育の土台には格差のない厚い福祉国家があることが紹介されました。同時に、新自由主義的な政策が、このフィンランドでも導入されていることも紹介されました。つづいて、北海道教育大の庄井良信さんと、都留文科大の田中孝彦さんが、フィンランドでの教育調査について報告。フィンランドの子どもたちが何を感じているのか。新自由主義的な動向の強まりの中でいまどんな模索がすすめられているのかということの問題提起がおこなわれました。
正直言って、このシンポのもとになった『フィンランドに学ぶ教育と学力』という本も買ってはいたんですが、読み切れていませんでした。シンポに参加して、あらためて、フィンランドの教育の基本が、競争や格差の拡大ということと正反対の、寛容、共助というものにあることがよくわかりました。同時に、グローバル化の進行というもとで、経済的な要請からも、その基本をふまえながらも、いろいろな模索がなされていることも興味深いことでした。
シンポが終わった後、少し、ある先生とおしゃべりしたのですが、グローバル化の進行のもとでの新自由主義の動向と福祉国家政策との関係は、もっと、社会科学の課題として分析する必要があると言われていたのですが、重く受け止めなければと思いました。
いずれにしろ、日本の政策当局も意識せざるをえないフィンランドの教育。あいかわらず日本の政策サイドは、つまみ食い的な受け止めなんでしょうが。私たちの問題として、この国が提示している問題を受け止めたいもの。十分刺激的なシンポジウムでした。
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フィンランドに学ぶ教育と学力
Author: 庄井良信、中嶋博他
Editor: 庄井良信、中嶋博
Year: 2005
Category: 教育
Publisher: 明石書店
Price: 2940円
ISBN: 4750321648
私も筆者として参加しました。この件で... [続きを読む]
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